研究紹介(5)

都市緑化・建物緑化の環境保全機能

背景

毎日暑いですね。この暑さは地球温暖化のせい?それともヒートアイランドのせい?
ヒートアイランドとは都市域が周辺地域よりも高温になる現象で,地図上の等温線が都心を中心に,島のように同心円を描くことから名づけられました。ヒートアイランドの原因として,空調などによる人工廃熱,都市を構成するコンクリートやアスファルトの蓄熱,緑や水面の減少による蒸発の減少,建物密集による空気交換阻害などが考えられます。
ヒートアイランドを緩和するには,建物の断熱・空調性能を向上して廃熱を減す以外に,緑地や水面を広くし,気流を妨げないように建物を計画的に配置すればよいのですが,過密な既存都市では困難です。そこで,建物屋上や壁面,敷地内空地を緑化する「建物緑化」が登場します。東京や大阪などの大都市圏では,建物緑化を計画的に推進する施策がおこなわれています。

建物緑化の効果

建物を緑化すると,どんなメリットがあるでしょうか?まず建物の断熱性が向上し,空調負荷を抑制できます。建物緑化に使用する土壌や植物が茂った層は断熱性が高いので,ちょうど建物に外断熱を施工したような効果を発揮します。次に植物の蒸散によって,建物表面と空気の両方が冷却されます。植物は葉の気孔から水を蒸発させる(蒸散という)ので,その蒸発潜熱によって建物表面だけでなく,それに接する空気も冷却されます。建物の断熱強化だけでは空気を冷却することはできませんが,緑化した表面には気温を下げる効果があります。三つめに,都市型洪水を緩和します。都市の表面はコンクリートなどに覆われているため雨水は地下に浸透せず,下水管を通ってすばやく河川に排水されます。このため,都市化が進んだ河川流域では急激に増水したり,下水管から水が逆流する都市型洪水が発生します。建物緑化は土壌中に一時的に雨水を貯留するので,急激な降雨流出を緩和する効果があります。その他,遮光・遮熱によって建物の劣化を防止したり,景観および心理的効果もあるといわれています。

建物緑化の問題点

建物緑化の普及にあたり,次のような問題点を解決しなければなりません。まず水を含んだ土壌や植物を屋根に載せるために,建物に余分な荷重が加わります。地震国である日本では,静荷重,風荷重の他に地震荷重を考慮して,建物に十分な強度が必要です。既存の建物では屋根に載せられる荷重が限られ,また新築建物では強度を増すためにコストアップが避けられません。次に,植物や水による建物の損傷が懸念されます。植物の根が直接外壁に達しないよう,また外壁が常に濡れた状態にならないような工法・施工が必要です。植物から見ると屋上や壁面は生育環境として厳しく,特に軽量化のため土壌を薄くすると十分な水分が得られず,枯死する危険があります。散水施設を設置することもありますが,初期コスト,運転コストがかかります。乾燥に強いまた散水,芝刈りや剪定,除草,植え替え,施肥,防除など,施工後も維持管理の労力と費用を要します。

屋上緑化実験

現在,研究室のある建物屋上で,高麗芝による屋上緑化実験をおこなっています。基板に土壌とロックウールを使用し,薄層ながら保水性を確保しています。基盤底部に樹脂レールウェイパネルを置き,高麗芝の生育に必要な余剰水排水と通気性を確保したため,短い養生期間で見事な芝生ができました。
屋上緑化面のサーモグラフィ屋上緑化面の温度の日変化
屋上緑化面のサーモグラフィ
コンクリート表面(右側)と芝生表面(左側)で,はっきりと表面温度の違いがわかる。
屋上緑化面の温度の日変化
屋上のコンクリート表面温度は最高55℃に達しているが,緑化面は最高39℃で,約15℃の冷却効果がある。さらに緑化面の下の屋根面では最高温度わずか32℃で,日変動も4℃しかない
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