Alumni Letters







斎藤 祥子(現 川澄化学工業株式会社)

    こんにちは。粟津研究室OGの斎藤祥子と申します。2015年4月から2018年3月までの3年間、PDTの研究をしていました。現在は川澄化学工業株式会社という医療機器メーカーの研究開発部に所属しています。社会人3年目の未熟者ですが、学生時代を振り返り、やっておいた方が良かったなと思うことについてお伝えします。少しでも皆さんの参考になれば幸いです。

   1. 自分の頭で考える

    研究室に配属されてから各自の研究テーマを持ち、日々研究に励んでいることと思います。研究を行っていく中で予想外の実験結果になったり、実験が上手くいかなかったりすることもあるでしょう。その時に、このような結果になった原因は何なのか、どのような現象が隠れているのか、原因に対してどのような対策を行っていくのかを自分の頭で考えることが大切だと思います。私は入社してから新製品の開発に関わってきましたが、開発するのは今まで世の中にないような製品です。上手くいかないことも多々あり、その時に文献で調べても原因が分からないことがあります。そんな時は、起きている現象をよく観察し、自分の頭で原因と対策を考える必要があります。学生の時は教授に指示されて実験をやることもあると思いますが、ただ結果を出すだけではなく、考えながら実験を行ってみると良いと思います。そうすることで研究がさらに面白いものになっていくかもしれません。

   2. 様々なことに興味をもつ

    粟津研究室は幅広い研究をしているため、研究テーマでグループに分かれていると思います。自分の研究テーマを突き詰めていくだけではなく、自分のグループ以外の研究テーマにも興味をもって、周囲の人に色々と聞いてみると良いと思います。普段話している時に聞いてみたり、実験を覗いてみたり、ミーティングで質問してみたりと機会はたくさんあります。一見自分のテーマとは関係ないように思えても、実験が上手くいかない時の解決のヒントになるかもしれません。また、様々な話を聞くことで別の視点から物事を考えられるようになり、視野も広がると思います。自分の研究を進めることは大変ですし、それだけで手一杯になっているかもしれませんが、ちょっと手が空いた時にでも気軽に聞いてみたり、見てみたりしてはどうでしょうか。様々なことに興味をもって周囲の人に聞いてみる習慣は、社会に出てから役立つと思います。


    以上、社会人になって感じたことを書いてみました。粟津研での研究生活を振り返ってみると、大変なこともありましたが、逃げずに頑張った経験は今に活きていると思います。皆さんも失敗を恐れずに挑戦してみてください。最後になりましたが、今回OG便りを執筆する機会を与えていただいた研究室の皆様にお礼申し上げます。また、どこかでお会いしましょう。

2020年5月1日
斎藤 祥子

橋村 圭亮(現 国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

    粟津研究室ホームページをご覧の皆様、こんにちは。橋村圭亮と申します。2011年4月(学部4年)から2016年3月(博士取得)までの5年間、粟津研究室に在籍しておりました。現在は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST)にて、医療機器の研究開発を行う研究者として勤務しています。 在籍中は波長5.7μm帯量子カスケードレーザーを用いた低侵襲な動脈硬化治療法の研究を行っていました。週報に月報に輪講に学会発表にと、てんやわんやしていましたが、研究室メンバーと助け合い、励まし合いながら乗り越えてきた思い出があります。ですが、今になって振り返ると、研究室生活で意識していて良かった点や、もっとこうするべきだったと思う点が幾つかありましたので、今回執筆させていただきました。お小言的になっていますが、お付き合いいただければ幸いです。

   上手くいかなかったことこそ価値があると考えること。

    物事(実験など)が思い通りにいくことはもちろん嬉しいことです。周囲への報告も気兼ねなくできます。ですが、それは必ずしも良いこととは限りません。偶然上手く行っただけかもしれないのに、その結果をもたらした本質的に重要なことに気付かないまま、先へと進んでしまう可能性があるからです。その結果、あの時は上手く行ったのに…ということが起こり得ます。一方、想定とは違う結果が出た場合は、なぜそうなったのか考察する必要が出てきます。どの過程に原因があるのか、それを調べるにはどうすればよいか、どうすれば目的の結果に辿り着けるか、考えることややるべきことが沢山生まれます。この1つ1つが新たな研究のネタとなり、より研究に広がりを持たせることができます。こういった経験を経て手に入れた知識は自分自身の財産となります。これこそが学生としての研究活動だと思います。
    失敗してもへこたれるな!ってことですね。

   一つの方法、考えに凝り固まらず、時には一歩引いて俯瞰すること。

    これが解決しないと先へ進めない、でもどうしても上手く行かない…と落ち込むことはないですか?研究を突き詰めていくにつれて、一つのことにこだわってしまい、全体の流れを見失ってしまうことはありがちです。その方法は絶対に必要なことでしょうか。もしかしたら、代わりになる策があるかもしれませんし、そもそも研究全体における優先度としてはずっと低いものかもしれません。
    また、自分がやろうとしていることや考察が、周りの人からの指示や意見と食い違っていて、納得がいかないことはないでしょうか。自分の視野が狭くなっていると、立腹してしまうこともあるかもしれませんが、別の人には別の人なりの考えがあり、それを意見するに至った背景があるはずです。一歩引いた立場から、その背景を考えてみてください。もちろん直接聞いてみるのもOKです。他人の考えは自分とは異なる知識と経験に基づくものですので、それが理解できれば、自分の思考の幅も自ずと広がっていきます。多角的かつ広い視野を持とう!ってことですね。

自分でモノを作ってみるということ。

    これは自分がもっと研究室のときにやるべきだったなと思うことです。テーマにもよりますが、レーザー応用の分野であるために、既にある装置やソフトウェアありきの研究になっている人が多いのではないかと思います。粟津研の研究がいかに価値あるものかは既に理解されていると思いますが、工学系出身者として社会に出て素直に期待されるのは、モノを創造できることだと感じました。研究のゴールである診断・治療機器を作ることができればもちろん一番素晴らしいですが、そこまで行かなくとも、研究をより楽に進めるためのモノ(道具・機器やPCのプログラムなど)を積極的に自分の手で作ってみると良いと思います。手軽に取り掛かれるところだと、計算作業の簡略化のためにプログラムを書いてみたりするところから始めてもいいかもしれません。


    他にも色々と大切なことはありますが、他の方のOB・OG便りにも書かれていますので、是非読んでみてください。自分が博士を取得したのは、学生として最後までやり遂げ、達成感を得たいという思いがあったからです。それはそれで後悔はありませんが、その為に講義や研究活動以外のことに力を向けることはあまりできませんでした。一方で、部活やサークル活動を頑張る人や、バイトとの両立を一生懸命やっている人など、自分と同じ研究室生活を送りながら、器用にスケジュール管理をしている人たちを見て、凄いなと感じていました。同世代の人が集まって刺激を受け合うことができるのは、この研究室生活が最後になるかもしれません。是非、周囲との絆を大切にして、充実した研究室生活を送り、社会人へと繋げていってください。 最後に、ここまで読んでいただいて大変ありがとうございました。これからも粟津研OBの1人として、宜しくお願い致します。

2019年1月7日
橋村 圭亮

井口 泰成(現 パナソニック株式会社)

    パナソニック株式会社の井口 泰成(いぐち やすなり)です。2014年4月から2017年3月までの3年間粟津研究室に在籍し、質量分析の研究をしていました。今回は、現在の業務について少しと、粟津研の学生の皆さんへのメッセージを書かせていただきました。皆さんにとって少しでも参考になれば幸いです。

   1.現在の業務について

    現在の業務はロボット掃除機の開発で、粟津研で学んできたレーザー医工学とはかなり分野が異なります。技術的にほぼゼロからのスタートで苦しい時もありますが、光学の知識がロボットのセンサーの配置検討に活きた時や、海外メンバーとの英語でのミーティングでうまく情報を共有できた時は、粟津研でやってきたことが今に繋がっていると勇気づけられます。
    会社に入って、コンピューターやITについての知識があればとても便利だと思いました。学生時代の僕にとってコンピューターはパワポやインターネット等をするためのただの道具でしたが、ハードとソフトの仕組みや、コンピューター間での情報通信技術について知れば知るほど世界が広がると感じます。AIやIoTの時代ですので、どんな仕事でもコンピューターやITの知識が役に立つと思います。研究の息抜きにでも勉強してみるのは如何でしょうか。

   2.学生の皆さんへ
・研究を楽しむ

    まずは、研究をしっかり楽しんでください。自分の研究テーマが好きで楽しいことが研究生活を送る上で最も大事だと思います。研究室に入って最初の頃に好きなテーマを選んで最後まで楽しいのが一番ですが、なんとなく決めたか、先生から与えられた研究テーマに取り組んでいくうちに好きになっていくということもアリだと思います。研究テーマの背景や意義をしっかり理解し、研究テーマを好きになっていきいきと楽しみながら研究してもらえたらと思います。

・素直さを持つ

    研究室内での発表で、先生や先輩方から厳しいご指導を受けることもあるかと思います。悔しい気持ちになり、落ち込んでしまうこともあるでしょうが、言われたことを素直な気持ちで一旦受け止め、正しいことであれば取り入れていきましょう。そうしてどんどん自分を磨き上げていけば怖いものなしです。ピンチはチャンスです。叱責や忠言から学ぶ素直さを持ってどんどん成長していきましょう。

・自分と他人のことを良く知る

    研究室はお互いが助け合う一つのチームだと思います。僕は3年間で先生・先輩・後輩・同期にとても支えられました。個人的には、自分の研究以外のテーマにも日頃から興味を持って、誰に対しても的確な質問やアドバイスをできる人は研究室にすごく貢献していると感じました。自分のテーマばかりにのめりこみがちな僕のような人は、そういう人たちを見習って広い視野を身に着けないといけませんね。 一方で、それぞれの個性があるからこそ良いチームプレーになるとも感じています。自分が頑張る姿で後輩たちを引っ張っていける人や、どんな時も冷静で頼りになる人、あえて厳しいことも勇気を持って言える人、面白いことを言って場の雰囲気を和ませることができる人など、書ききれませんが色々な人が違った場面で貢献していたと思います。自分と他人のことを良く知った上で、全体を見ながら自分の役割を果たせる人が研究室や集団社会で必要とされる人なのではと感じます。


    以上、色々書かせていただきました。A1棟やA14棟で研究をしたことや、皆で宴会や旅行に行ったことは一生の思い出です。楽しいことも辛いことも貴重な経験になると思いますので、頑張ってください。たまには宴会に顔を出そうと思いますので、是非色んなことを話しましょう。では!

2018年10月1日
井口 泰成

岩出 彩花(現 オムロン株式会社)

岩出先輩

    こんにちは。岩出 彩花(いわで あやか)です。2013年4月~2016年3月までの3年間、質量分析チームで研究をしていました。現在はオムロン株式会社にて研究職に就いており、光や電波を利用したセンシング技術を開発しています。OG便りを執筆する機会を与えていただき、研究室の皆様に感謝申し上げます。今回は、研究職として2年半働いてみて感じる「粟津研で経験していてよかったこと」をお伝えしようと思います。将来どんなキャリアを積んでいきたいかは後輩の皆さんそれぞれで違うと思いますが、なにか気づきのきっかけになれば幸いです。

    就活を始めた当初、私は開発職を志望していたのですが、ある日実験中にふと「現象を物理的に評価して、その成果をものづくりに活かす」ことの重要性を感じて、センサにかかわる職種を志望するようになりました。そして、ご縁があってオムロンのセンシング研究室で働いています。応用研究職は、開発職に比べて抱える仕事の量は多くありませんし、製品化に携わる機会も少ないと思います。しかし、世の中にはまだない技術を作るので、自分のアイデアが製品の要となる非常に魅力的な職業だと思います。 職場ではいろんな人が活躍していますが、私は粟津研で磨いてきた3つの力が仕事で活かせているなと感じています。それは、アウトプット力、向上心、ポジティブさです。

   粟津研で経験していてよかったこと
・1週間後の週報で報告することを考える⇒アウトプット力

    私の職場では、日々の業務は基本的に自分やチームの裁量に任されます。ですので、業務の中で何を達成するのかを事前に考えて行動しないと目的を見失って中途半端なアウトプットしか出せなくなり、業務の価値を自分で薄めてしまいます。1週間で自分はどんな成果を出したいのか、成果を出すためにどんなプロセスを踏むかを考える癖をつけるために、週報はとても役に立ちました。

・メンバーの研究に気づきを得て自分の研究を見直す⇒向上心

    自分の力ではどうしても課題を突破できなかったり、工夫が偏ったりするので、研究職は、わからない部分をさらけ出し、疑問を解決しようとする姿勢が求められます。私は粟津研にいた頃、学部で機械工学を専攻していた同期と後輩に実験結果を見てもらって考察したり、工作センタの所員の方に部品作成を手伝ってもらったりして奮闘したことがあります。結局は大した成果になりませんでしたが、おかげで考察が深まりましたし、次も相談できる相手が見つかり、自分の研究を客観的にみられるようになったので、行動してよかったと思っています。

・自分の目的を持つとしんどくても楽しくなる⇒ポジティブさ

    研究職は、成果を出すまでに想像していたより多くのアプローチを試みますし、何度も失敗します。ですので、失敗を糧にしてさらに前進しようと思えるポジティブさが必要です。私は粟津研にいた頃、自分が評価した現象を数式で説明できるようになることを目指して、論文や参考書をたくさん読んでいました。そのおかげでM2になってやっと自分の研究をシンプルにとらえることができるようになり、研究が楽しくなったように思います。今の職場では、チームメンバが少ないため、自分の専門以外の業務を担当することがあります。現在、業務の一つに競合製品の性能評価があり、アナログ回路の知識がないと評価が進まず、自分が役に立てているのか不安でつらいですが、将来自分で回路を試作できることを目標に、まずはチームのメンバと課題について数字で議論できるように、業務の合間を縫ってアナログ回路の勉強をしています。


    粟津研究室での経験は、将来の自分の基礎を作ります。ぜひいろんなことに挑戦してみてください。皆さんの成長に期待しています。またどこかでお会いしましょう!

2018年10月1日
岩出 彩花

稲井 瑞穂(現 ロート製薬株式会社)

稲井先輩

    こんにちは。今回は特別号として、今年、博士号を取得し、卒業式にて総代を務められた稲井先輩が先生に送られたメッセージをご紹介いたします!!また、写真館の方にも、写真を掲載しております。ぜひ、ご覧ください!!


    ICUの卒業式は大学院生を含めても400人程度のものであるため、大阪大学の規模の大きさには正直驚かされました。このような貴重な経験をさせていただけたこと、大変嬉しく思っております。
    今回総代を務める機会をいただけたのは、研究室内での的確なご指導や、国内外の学会やハーバード大学での研修を通じ、他の学生にはない研究に対する姿勢や思考法を学ぶことが出来たからだと考えております。自由な研究環境与えてくださったこと、また対外的に自身の研究を発信していく多くの機会を与えてくださったこと、非常に感謝しております。
    4年間本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

2018年4月1日
稲井 瑞穂

井本 英志(現 島津製作所)

    粟津研究室の皆様、こんにちは。2013年4月~2016年3月までの3年間、粟津研究室に在籍していました井本英志と申します。学生の時はイメージング質量分析に従事しており、現在は島津製作所にて質量分析の開発グループに所属しています。

   1.結局、何が言いたいんや

    学生の皆様も言われたことがあると思います。私も学生の時に先生方からよく言われました。要点を纏めることは社会人になってさらに重要性を増します。なぜなら、時間に対する縛りが厳しくなるからです。会社では時間と結果に対してお給料を頂きます。このため生産性を上げるために1分1秒が惜しまれます。会議にて、つらつらと枕詞を並べて報告する時間はありません。粟津研究室では先生とのディスカッションにより、この能力が抜群に鍛えられるので自信を持ってください。
    仕事柄、海外の方々と電話会議することがしばしばあります。ここでの注意点は2点あります。人の記憶は20分で約4割が忘れられると言われていること、言語の違いがあるため齟齬が生じる可能性が高いこと。「結論、○○ですよね」と同意を得て仕事に取り掛からないと成果物ができた後で修正はできません(できたとしても時間がもったいない)。ここでも粟津研究室での経験が役に立ってます(月報を英語で話すスキル、月報の最終スライドにて要約するスキル、英語で質疑応答するスキル)。就職活動にて面接される際は是非この点を推しましょう。

   2.肝を据える

    研究成果報告会が多い点も粟津研究室の素晴らしいところだと思います。データだけ持って先生とディスカッションするのではなく、グループや学会にて発表することで他研究室の方々からアドバイスや意見を頂く機会ができます。ここで学生の方々に伝えたいことはドンと構える姿勢です。私は学生の身分ながら質量分析総合討論会で田中耕一さんの前で口頭発表を行った経験があります。その他に共同研究の方々に進捗報告する機会がありました。進捗の少ない進捗報告会ほど怖いものはありません。しかし、やるしかないからやるしかありません。腹を決めて・くくって・据えて下さい。多くの学生の方々がこのような場面に直面し、日々肝が据わってきていると思います。しかし、どうしても慣れないという方は、ピンチはチャンスという気持ちで臨んでください。「ここで失敗したらどうしよう」と考えるのではなく、「この状況で成功したら私はすごいんじゃないか」と切り替えてください。成功した後の自分へのご褒美、打ち上げ、ヒーローインタビューまでイメージできれば後はもうやるだけです。

   3.芯を持つ

    粟津研究室に所属して間もない頃でした。初めての週報を提出してすぐに粟津先生から「貴君のデータに興味があるので月曜日の朝に部屋に来てくださいな。」とメールを頂きました。データに不備があるのではと必死に論文を読み漁った事を覚えています。そして月曜日、部屋に入るや否や、「データを間違えておりました」と報告すると、「そんなことは良いからベランダに行こう」と誘ってくださり、「君はここで何がしたい?」と聞かれました。これまで受け身な姿勢で取り組んでいたので、とても印象的な一言でした。ここでのディスカッションで自分が、何のために、誰のために研究し、どうなりたいかという指針が決まったと思います。学生の皆さんは何のために、誰のために研究に従事していますか。答えは何でも良いですし、時間の経過や環境によって変化してもいいと思います。受身のまま何となく日々を過ごさないで下さい。そんな時はベランダで喝を頂いて下さい。


    OB便りを書く機会を与えてくださり、誠にありがとうございました。学生の時にOB便りを拝読していましたが、今読み返しても様々な分野で活躍されている先輩方から良い刺激を頂きました。粟津研究室の方々も社会人になって読み返してみてください。私は上で偉そうな事を書いておりますが、学生の時分は大した成果挙げておりません。同じように成果が出なくて焦っている学生が「こんな先輩もいるんだな。気が楽になった」と思ってくれれば幸いです。怠けてはいけません、そこは反面教師でお願いします。粟津研究室が発展するためには研究室に所属する学生の方々の心と体の健康が第一です。今後とも微力ながらサポートさせて頂きますので有事の際はいつでも連絡して下さい。名刺はガイアレーザーの導光チェックに使って頂ければと思い実験室に置いてあります。それでは、また会いましょう。

2017年7月18日
井本 英志

閑念 弘樹(現 島津製作所)

    株式会社島津製作所の閑念 弘樹(かんねん ひろき)です。2012年4月~2015年3月までの3年間、質量分析の研究をしていました。私自身もこのOB・OG便りを読んで研究生活の糧にしていました。社会人2年目でまだまだ修行の身ではありますが、今感じていることを率直にお伝えします。学生さんにとって何かのきっかけになれば幸いです。

   1.就職して感じたこと

    就活した方はお気付きかと思いますが、現在の環エネにおいて、ものづくりに必要とされるスキル(主に機械・電気・ソフト)を習得するには決して恵まれている環境ではありません。現在、私は質量分析計や液体クロマトグラフィーといった分析装置の電気・電子基板の設計をしていますが、周りの同期とは異なり、大学で電気設計を学んでいないため、スタート時に大きな差を感じました。もちろん、大学時代に学んだことがまったく役に立たないというわけではありません。誤差を計算する場合の統計学、ノイズ(電磁波)を考える上での電磁気学等は非常に役に立っています。ただし将来、設計者として仕事をする場合、間違いなく他人よりも苦労します。覚悟しておいた方がよいです。
    一方で、役に立つことがなかったわけではありません。特に粟津研で培ったスキルは役に立ちます。ここでは特に役に立った事を2点紹介します。一つ目は、発表スキルです。粟津研ではプレッシャーのかかる場面で発表する機会が多いため、場慣れします。社会人になるとどうしても失敗して恥をかきたくないという心理が働きます。学生の内に人前で思いっきり失敗できたのはいい経験だったかなと思います。二つ目は、スケジュール管理です。社会人になると、学生時代とは比べ物にならないぐらい時間当たりの仕事量が増えます。今抱えている仕事を全て同時にやることはできないので、自分の中で整理してこなす必要があります。粟津研では、一度に多くのことをやらなければならない時期がある(月報の準備をしながら実験をして、就活をするなど)ので、ある意味でいい勉強になると思います。

   2.今の学生へ
・仲間と一緒に困難を乗り越える

    学生とはいえ、研究や就活、バイトなど忙しかったことを覚えています。正直、体力的にも精神的にもきつくて研究室に行きたくないことも多々ありました。そんな時に周りの仲間、同期の存在は大きかったです。就活時期によくK山君の面接を同期でしたことは今でもいい思い出です。卒業後も飲みに行って仕事の話をする等、今後長い付き合いになります。

・自己を管理する

    何かにチャレンジする時、何か行動に起こす時にはパワーが必要です。学生生活も苦労が多いと思いますが、社会人になると、精神的にも肉体的にも、学生とは違った困難が出てきます。今のうちに自分に合った息抜き方法を見つけておくといいですよ。私の場合、休日に何もしないと罪悪感で自己嫌悪になるので、休みながらも無理のない範囲で何かするようにしています。

・苦しい時にこそ自分の真価が問われる

    うまく物事がいっている時には、人の言動にあまり差が出ません。逆に余裕がなくなった時に、人の本当の部分が出てきます。物事をネガティブにとらえてストレスを抱え込んでしまったり、人のせいにして目の前のことから逃げ出したくなったりします。そんな時歯を食いしばって困難を乗り切ることも時には必要ですが、一番大切なのは、苦しい時に自分がどうなるのか、理解しておくことだと思います。私自身、学生時代に何もかもがどうでも良くなり、自暴自棄になったこともありました。そんな時は一度冷静になり、今すべきことを一つ一つ片づけていくようにしています。もしかすると横にいつも笑顔でいる人も水面下では必死にもがき苦しんでいるかもしれませんね。


と、今思うことをつらつらと書いてみました。粟津研究室での日々は、誰もが一度は辞めたいと思うくらいしんどいと思います。ただ社会人として、こうして振り返ってみるといい経験をさせてもらったなと実感します。粟津研究室での苦しい数年間をどう過ごすのか、どう乗り越えるのかが、学生に課せられた一番の研究テーマなのかもしれません。
    皆さんの成長に期待しています。またどこかでお会いしましょう!

2017年3月7日
閑念 弘樹

山内 将哉(現 シスメックス株式会社)

    粟津研在籍の皆さん、こんばんは。粟津研OBの山内将哉です。私は、2012年の4月から2015年の3月まで粟津研でPDTの研究に従事していました。現在はシスメックス株式会社で光学系技術者として仕事をしています。     遂に自分もOBだよりを書くときがやってきました。偉大な先輩方の様なことを書くことが出来るか不安ではありますが、在校生の皆さんに伝えたいことをつらつらと書いていきます。

   1.「やりたくないこと」をやる

    人が成長するときってどんな時でしょうか?私はタイトルの通りやりたくないことをやり遂げた時だと思います。日々を漫然と過ごしていると、自分の嫌なことからは逃げがちです。そっちの方が楽ですし、いつもと同じ様にしか動かないので失敗もしにくいと思います。でも逃げていたことに向き合わなければいけない時は必ず来ます。皆さんはぜひ学生時代のうちに「やりたくないこと」にもチャレンジしてみてください。それを克服できた時、きっとそれまでの自分よりは大きくなっているはずです。それに自分が今まで深入りしなかった世界に踏み入るわけですから、視野も当然広がりますし、自信もつきます。(ちなみに私の場合、それは「人前で喋ること」でした。粟津研は発表をする機会がたくさんありましたし、自分でも指南書的なのを読んだりして今では何とか克服できています。相変わらず嫌ですが(笑)社会にでると、それまで以上に「やりたくないこと」に出くわす可能性は高くなっていきます。学生時代のうちにそれを克服した経験を作っておくと、きっとそれが励みになると思います。それは多分、知識やスキル以上に大切だと思います。小さなことでも良いのでぜひ実践してみてください。

   2.想いを持つ

    人生「これが出来るようになりたい、こうなりたい」と思っていると案外それに向かって物事は進んでいきます。なぜなら想いがあれば、それが叶うように無意識に一歩を踏み出すようになるからです。皆さんも、常に自分のなりたい姿をイメージしておくと良いと思います。すると、不思議とそれを実現するためのチャンスに出くわすようになります。(というよりもチャンスがあることに気づくようになるのでしょうか)チャンスに出くわしたときは、上でも述べましたがそれが「やりたくないこと」であっても飛び込んでみてください。きちんと想いを持って、どんな小さな事でも積み重ねていけば、いずれ目標とする自分に近づけると思います。


    と、ここまで意識高い系のことを書いてしまいました。     粟津研での研究生活では大変なことや苦しいことは一杯あると思います。それから逃げることは簡単ですが、逃げてしまうと結局苦しかった時間だけが残ります。卒業/修了後に有意義な期間だったと思えるように、日々少しずつ頑張ってみてください。そして、自分が頑張るだけでなく仲間である同期、先輩、後輩を大切にしてくださいね。
    最後に大学に残らず就職する人たちにとっては、粟津研を出た後がスタート地点になります。粟津研ではたくさんのものを得ることが出来ますが、それに奢ること無く、初心を忘れないでください。(上の文章は自分に対する戒めでもあります笑)
    ではでは、皆さん研究生活頑張って下さい。関西にいる限りできるだけ顔を出しますので、また会いましょう!

2016年4月5日
山内 将哉

野添 紗希(現 NTT研究所)

    こんにちは、野添紗希です。私は2010年の4月から2013年の3月まで、下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術(EVLA)の研究をしていました。現在はNTT研究所にて、一人前の研究者になるべく、日々修行の毎日です。現在の業務に就いて1年が過ぎ、社会人生活に少し慣れてきました。後輩の皆さんに伝えたいことを綴ります。

   1.就職活動 ―将来の選択肢は幅広く―

    現役の皆さんは研究を始めて、数ヶ月~数年です。研究分野のことがわかり始めたところで卒業してしまう位の長さではないでしょうか。私がお伝えしたいことは、まだ研究の経験が少ないにも関わらず、研究は向いてないから研究職はやめておこう、とか、理系は向いてないから文系の職業で探してみようとか、間口を狭めないでほしいということです。
    私は、なんでもやってみたらその仕事の面白さを発見できると思い、職種は絞りませんでした。このやり方は正解だったと感じています。もし職種を絞っていたら、今の職場の存在は知らないままでした。「たまたま説明会のときに席が空いていて座って、受けたら受かった。」、そして今、非常に恵まれた環境で仕事ができています。この受けたら受かったという答えを飲み会の席とはいえ、そのまま上司に話してしまった私は我ながらなめた新入社員ですね。笑
    私は普段、粟津研の皆さんとほぼ同じ生活スタイル(実験+理論計算→データまとめ→学会参加)です。この生活スタイル、もう嫌だという方もいるかもしれませんが、環境(一緒に研究する同僚、研究分野)が変わるとすべてが違って見えます。同僚は誠実+謙虚=ジェントルマン☆なだけでなく、知識量もものすごいので、ついていくのに必死です。この人たちのようになりたいと目標をもつことが日々の活力になっています。また、研究分野に関しては、医療と全く関係ない通信の仕事に対して、興味を持てないのではと当初思いましたが、最近面白さを発見しました。偉大な先輩方の知恵を生かしつつ、いかにトップデータを出すかという、世界と争う非常にやりがいがある仕事だと思っています。このように環境が変わると、同じ研究と言っても、日々新しい発見がいっぱいあります。間口を狭めず、選択肢を幅広くもって良い就職先をゲットしてください!

   2.普段の生活での考え方 ―ノーモア自己嫌悪!―

    4回生から研究室生活が始まり、うまくいかないことが多くて嫌になったり、先生に怒られたりで、つい、「自分はなんてダメな人間だろう」と思うことはありませんか。私も研究室にいたときや、今働いていて同僚の優秀さに気後れしてしまい、ついこう思ってしまうことがあります。しかし!自己嫌悪は一人で落ち込んでどんどん深みにはまっていき、悪循環です。ノーモア自己嫌悪、今すぐやめましょう。マイナスな考えをプラスに持っていく考え方は北籔さんのOG便りを参考にぜひどうぞ。ええこと書いてあります♪

   3.研究室の仲間を大事に

    研究室は同年代の学生が多く、日々の生活や飲み会、ラボ旅行等、本当に充実した日々を過ごすことができましたし、皆さんもそうではないでしょうか。ただ、研究室生活になじめない仲間もいるはずです。その時に、彼や彼女を気にかけてほしいなと思います。同じ環境で生活しているので、最近辛そうだな等、その人の状況を理解しやすい立場ではないでしょうか。話を聞いてあげるだけでも良いかもしれません。粟津先生をはじめスタッフの方に相談してみるのもよいかもしれません。先生たちは研究面ではもちろん生活面でもサポートしてくださいます。私も相談して解決しましたし、山田さんのOB便りにも書いてありましたね。縁があって知り合った仲間ですし、大事にしてください。


    最後に、これからも皆さんとのつながりを大事にしていきたいと思っています。関東にお越しの際は、ぜひお声かけください。つくばエクスプレスに乗ってひょいっと駆けつけます。私が関西に帰省した際は、一緒に遊んでください!喜びます。
    今後ともよろしくお願いいたします。

2014年12月1日
野添 紗希

大宮 孝太(現 ソニー株式会社 DI事業本部 コア技術部門 光学設計部 2課)

    粟津研のみなさん、こんにちは。粟津研に2010年の4月から2013年の3月までお世話になりました、大宮孝太です。私は今ソニー株式会社でカメラ用のレンズ設計を行っています。
    今回OB便りを執筆する機会を与えていただき、ありがとうございます。しかし、まだ社会人として1年経ったばかりの半人前・・・内容には非常に悩みましたが、この1年間で感じたことをありのままに書こうと思います。粟津研OBとしては珍しく一般消費者向けの製品を作っているので、他の皆様とは少し違うお話ができればと思っています。

   1.「物を作る」ということ

    早速ですが、物作りについてです。研究をしていると、結果ばかりに目がいってしまい、自分が実験で用いる物がどうやって作られているか、自分の研究が製品化するとしたらどうするか、なんてことはあまり考えないのではないでしょうか。光学製品というものは非常に繊細なもので、もちろんどのような光学系を作るかにも依りますが、カメラのレンズの場合、中身が0.1°, 0.1 mm動くだけでも性能は全く異なってきます。製図誤差等でバラつく部品を組み合わせ、制御しながら高性能なものを大量に生産する、ということがいかに難しいか、今まさに実感しているところです。
    実験で精一杯かもしれませんが、たまにはそういう視点で自分の研究を見てみてはいかがでしょうか。日々の調製に力を入れてみたり、簡単で正確な調整法を考えてみるのもいいかもしれません。

   2.「勉強をする」こと

    医療系に進んだ場合はある程度研究のバックグラウンドがありますが、そうではない場合、「環境・エネルギー工学科」は最初の数年においては非常に不利な状況だと感じます。電機メーカーの話になってはしまいますが、仕事をする上で必要な能力を大雑把に言うと、やはり機械・電気・ソフトです。環エネという学科はそれらが得意とする「図面(CAD)、電気回路、プログラミング」のどれをとっても不利な状況であり、「ほぼゼロからのスタート」になることが多いです。もちろん研修制度はありますが、大学で基礎をつけている同期には敵いません。そういった状況で、数年後に負けたままなのか、それとも追いつくのか、或いは追い越すのか。そこを分けるのはやはりどれだけ自分で勉強するかにかかっていると思います。粟津研に配属された時も「ほぼゼロのスタート」であったはずなので、それを思い出してもらえればと思います。
    ちなみに、英語を使う機会が非常に増える可能性があります。月報など英語を使う機会にはしっかり勉強しておいてください。

   3.「遊ぶ」こと

    最後に。研究生活は非常に忙しいと思いますが、朝決まった時間に必ず出社しなければならない社会人とは違い、学生はやはり少し自由だったなぁ、と感じています。後悔しないように、卒業するまでにメリハリつけて遊んでおきましょう。たまに「借金してでも旅行に行ったほうがいい」という話を聞きますが、就職してからの基本給を考えればそれもいい選択肢なのかもしれません。


    以上、1年間社会人をやって正直なところを様々に書いてみました。実際に話したほうが伝わることも多いと思いますので、聞きたいことがあればいつでも連絡してきてください。それでは皆さん、研究生活忙しいと思いますが、メリハリつけて後悔のないものにしてください。
    最後になりましたが、先生方には学生時代非常にお世話になり、本当にありがとうございました。またOB会等でお会いできることを楽しみにしております。

2014年6月10日
大宮 孝太

北籔 晃子 (現 大研医器株式会社 研究部)

    粟津研の皆様、ご無沙汰しております。始めましての方もいらっしゃるかも知れません。大研医器株式会社の北籔晃子です。2010年から2012年の3年間、粟津研研究室でお世話になりました。

    先生方各位、お変わりなくお過ごしでしょうか。
    学生の皆様、お元気ですか?たまにはハメを外すのもいいかと思います。但し、自分の限界は理解しておいてくださいね!
    さて、私も社会に出てこの春で丸一年が経ちます。OG便りという貴重な機会を頂き、粟津研究室の皆様に何が伝えられるだろう…と考えていましたが...。

    私の伝えたいと思った事は、ほぼ全て先の先輩方が素敵な言葉で伝えてくださっていました。純粋に気の合う友達を見つける事、然り。広い視野を持つ事、然り。色々な事に挑戦してみる事、然り。肉体的・精神的に健康にも気を配る事、然り…。先輩方のOB・OG便りには、今でも励まされ意欲をもらいます。素晴らしい先輩方と関わりを持てた粟津研究室という場に、本当に感謝致します。学生の皆様、是非何かに行き詰った時、一度OB・OG便りを読み返してみてください。そして、つらい時は気軽にOB・OGを頼ってね。快く一緒に悩んだり、アドバイスをしてくれる先輩ばかりだと思うので。
    本当に、更に書くことが見当たらないです(笑)

    ですので、私の好きなといいますか、よく思い浮かべる言葉を書こうと思います。(非常に恥ずかしいです…。)

    好き嫌いはそれぞれお持ちの事と思いますので、不快に感じる部分はご容赦ください。ありふれた言葉ばかりですが、どこかに参考になるような部分があったなら、うれしく思います。
    この場を借りて、執筆の機会を下さった粟津研究室の皆様に、深く感謝申し上げます。それではみなさま、体を大事にしてくださいね。何卒ご自愛ください。


   1.のぼりばしご、上昇中

    頑張っても頑張っても、進まない。自分は全く成長していない気がする。締め切も迫ってくるし、焦ってきて、とにかく頑張っているつもりなのだけど、上手くいかない。私ってほんと駄目だなぁ。向いてないのかもしれない。仕事がうまくいかない時、研究が進まない時、こんな風に感じることもありました。そんなときに思い浮かべる言葉です。
    物事が順調にいっている時は、見える景色も目まぐるしく変わり、進んでいる実感が持てます。順調な時ほど前に進むのは簡単です。でも、壁を乗り越える時って本当につらい。同じ労力でも景色が全く変わりませんから。
    でも、頑張った分、何かが確実に自分の身についています。(この実感が持てたのは、最近になってからでした。)目にはなかなか見えませんし、自分の成長を実感できるのは、次のステップに進んでからだったりしますが。
    進みたい道が真横に伸びているとして、進まない時は、実は真上に伸びるのぼりばしごの途中。辛いなら、途中で降りて進める方向へ進む事もありだと思います。でも、昇りきったら視野が広がって、進みたい方向へ早く進めるようになっている。そう感じています。

   2.上手くいっている時ほど、真面目な顔で。苦しい時ほど笑顔!

    私は、物事が順調な時ほど簡単なミスをしやすいです。順調な時はうれしいけれど、冷静でいたいので、真面目な顔で冷静を装います(笑)
    苦しい時、苦しい顔をしていると、ただ苦しいです。笑顔になれれば、なんとなく大丈夫な気分になります。

   3.みている人はちゃんとみている

    頑張りを見ている人はちゃんといます。ほんとに。

   4.私が他人に優しくする事と、他人が私に優しい事は何の関係もない

    私の好きな小説からの一節です。他人が自分に優しくないからと、他人を拒絶し、理不尽な態度をとってもいいのか。自分に優しい人だけに誠実であればいいのか。
    他人が自分をどう扱うから…というのではなく、自分がどんな人間でありたいのか。それを大事にすべきではないか。という言葉だと思います。
    仮に仕事に置き換えるならば、自分の感情や体調は、(人と行う)仕事となんの関係もない。でしょうか。自分が辛く疲れているから、他人に辛く当ってもいいし、仕事がすすまなくてもいい。なんて、そんなわけはないと思います。逆に、共同研究者が不機嫌で理不尽な要求をしてくるから、自分も周囲に辛く当るし、いい仕事をしなくても構わない。そんなことも、ないと思います。
    この言葉については、納得しかねる部分もあるかもしれません。でも、どんな状況でもどんな人とも同じレベルの仕事ができる人って、私はかっこいいと思います。「自分はこういうレベルの仕事(研究)をする」「自分は人に対してこう接する」そういう事がぶれない人間でありたいと理想ながら考えています。

2014年4月1日
北藪 晃子

吉村 英敏(現 浜松フォトニクス株式会社 固体事業部 固体第4製造部 第41部門)

吉村先輩

    粟津研究室のHPをご覧の皆様、こんにちは。2008年から2011年まで粟津研究室のお世話になりました吉村英敏と申します。現在、私は浜松ホトニクスでCMOSイメージセンサの設計、開発に携わっております。
    このHPをご覧の方の中には浜松ホトニクスという会社をご存じない方もいらっしゃるかと思いますので、少し紹介させていただきます。浜松ホトニクスは光に関わる産業によって、社会に貢献することをモットーにしており、光センサを主力商品としていますが、それ以外にもレーザーや計測用のカメラ等、光に関わる製品幅広く製造しています。そういった意味では粟津研究室とも非常に関わりの深い企業だと思います。

    さてこの度、OB&OG便りに私のメッセージを掲載する機会を与えていただきました。私自身時折、粟津研のHPを拝見しています。特に、仕事でつまずいた時などはこのOB&OG便りを読んで、先輩方の励ましの言葉や、同期の頑張っている姿を見て、元気を頂いております。私からも後輩達へ何か良きアドバイスができればと思うのですが、人に説教できるほど大した人間ではないので、現在私が普段の生活で注意していること、大切にしていることを自分への戒めの意味も込めて3点ほど述べさせて頂きます。稚拙な文章ですが、しばしお付き合い下さい。

   1. 読書

    本は様々な知識を与えてくれます。レーザーの発振原理といった物理現象から遠く異国の生活様式、世界経済や過去、未来のことまでを自宅でゴロゴロしながら知ることができます。これだけ本が手に入りやすい時代に生きていながら、これを利用しない手はないでしょう。毎日の忙しい生活の中で、なかなか読書に時間を割くことは難しいと思いますが、できれば1週間に1冊くらいのペースで本を読みたいものです。何をもって人生の成功者とするかは意見の分かれるところだと思いますが、少なくとも世間から評価されている人のほとんどは読書家だと思います(芸術家やアスリートといった特別な才能を持っている人は別ですが)。では一体どんな本を読めばいいのでしょうか。私はできるだけジャンルを問わず興味を持ったものならなんでも読むようにしています。一見役に立たなそうな知識でも人生長いのでどこかで思わず役にたつ日が来るだろうと信じています。それに、このように書くと仕事に役立てるために読書をするように捉えられそうですが、役に立たなくても読むこと自体がおもしろければそれで良いと思っています。ちなみに私が本を選ぶ基準を紹介すると、私は自分の本棚にあったらかっこいいと思う本を選びます。なんとなく頭が良さそうな本棚にして、それを一人で眺めてはニヤニヤしています。「出世するためには○○しろ!」みたいな本はいかにも出世しなそうなので買わないようにしています(笑)。昔に比べて本を読む人が減ったのはテレビやインターネットが普及したからでしょうが、私はテレビより本の方が面白いと思います。本を読む習慣がない人はテレビを捨ててはどうでしょうか。

   2. 健康

    いくら研究で成果を上げるためにがんばっても、体の健康を疎かにするあまり、道半ばで病床に伏してしまっては何の意味もありません。規則正しい生活と適度な運動、健康的な食事は人間としての基本です。特に(私もそうでしたが…)、学生は無茶な生活をしがちです。研究成果を上げることも大切ですが、自分を大切にすることも忘れてはいけません。私たちの祖先は、何万年と朝日が昇れば起き、狩りに出かけるという生活を続けてきました。人間の体はそういう生活に合わせてできているので、パフォーマンスを上げるためにもやはり規則正しい生活と適度な運動が必須でしょう。私が粟津研究室に所属していたころは、学生みんなで、年に一度マラソン大会出るということをしていました。ただでさえ研究が忙しいのに大会前は練習に時間を割かなければならず大変でしたが、今思い返せば大会前の毎日走っていた時期の方が、普段より研究がはかどったような気がします。健康というと肉体的なことを思い浮かべますが、精神的な健康というのも肉体と同じくらい大切だと思います。ちなみに、体と心は連動しています。病気の時は気が弱くなるし、気持ちが落ち込んでいるときは体調を崩しやすい。両方の健康を保つことが大切です。どうしても研究や私生活のトラブルでストレスが溜まることもあるでしょう。そんな時は体を動かすなどして気分転換することが必要です。また、気心の知れた仲間同士で話すのもいいでしょう。粟津研究室のいいところのひとつに学生同士の仲が非常に良いというのが挙げられると思います。学生時代、研究で辛い時も同期や先輩方とくだらない冗談を言い合ってよく笑っていたのを覚えています。今思えばその何気ない会話がかなり心の支えになっていたような気がします。精神的にまいってどうにもこうにもできなくなったときは、思い切って休みをとって旅行に出かけるのもいいと思います。目的地はなるべく日常とかけ離れた辺境の地で、しかも一人で行くのがいいと思います。日常と離れて違う世界にいると、次第になんであんなことで悩んでたんやろうと思えるようになると思います。

   3. 広い視野を持つ

    研究もそうですが仕事をしていると、どうしても目の前の問題に集中して回りが見えなくなるという時があります。一所懸命ゴリゴリ仕事をこなしてひとつひとつの問題はなんとかクリアするのだけども、後から見返してみたら見当違いな方向へ進んでいたということがあります。そうならないように、たまに一歩ひいて物事を見るという習慣をつけるといいと思います。自分がとっている行動が将来どこに繋がるのか先の先を読む、自分の仕事が社会全体のシステムの中でどのように働くのか予想を立てるという時間が必要です。学生の間はある程度先生方が研究の指針を立ててくれますので(博士後期課程の人は違うかもしれませんが)、それに従って研究を進めればよいでしょう。しかし、企業に入ると自分で製品の仕様を提案して、開発を進めるようになります。そういったとき、本当に社会に求められていることは何だろうと常に問いかけ、行動指針を立てていかなければなりません。すこし大げさな話になりますが、今話題になっている社会問題、例えば環境破壊、貧富の差、国家間の争い、孤立社会等も社会全体としての損得を考えずに一部の限られた範囲での利益を追求した故に引き起こされたのではないでしょうか。自分の行動が数世代後の人に迷惑をかけないようにするためにも常に視野は広く持っておきたいものです。とまあ、話は大きくなりましたが、旅をするときにたまに地図を見ながら目的地に進むように、普段の生活でも少し立ち止まって自分の進む方向を考えればいいと思います。ただ旅でも少しの寄り道は色々な発見があって楽しいものです。人生の寄り道も少しくらいならいいのではないでしょうか(笑)。


    思いつくままに書いていると長くなってしましました。最後までお付き合い頂き有難うございます。ここに書いた内容が少しでも皆様の役に立てば幸いです。最後になりましたが、執筆の機会を与えて下さいました粟津先生及び粟津研スタッフの皆様に心よりお礼申し上げます。

2013年10月20日
吉村 英敏

山田 啓一郎(飛鳥メディカル株式会社 製造開発部品質管理課)

    粟津研のみなさん、こんにちは。飛鳥メディカル株式会社 製造開発部品質管理課の山田啓一郎です。粟津研には2008年4月の仮配属から12年3月まで、4年間お世話になりました。粟津先生にとっては恐らく一番手のかかる生徒だったと思います。私の経歴を聞き知っている方も多いでしょうが、今私の感じていることを書き連ねるには必要な経験ですので、少し書き連ねさせて頂きます。他の諸先輩方の書かれておられるような、皆さんのこれからに役に立つような話にはならないかもしれませんが、宜しくお付き合い下さい。

    私が阪大に入学したのは2002年の4月、今は名前が変わり統廃合されてしまいましたが、工学部電子情報エネルギー工学科に入学、2年時から原子力工学専攻に配属になりました。阪大に入学できたのも成績ぎりぎりだったと思っているのですが、入学できたことで満足したようなところもあり、また、「遊ぶ」ということが下手で、遊んでリフレッシュした、という充足感を得ることが下手でだらだらと時間を過ごすようになり、単位を落とす、自分はだめなやつだと自信を無くす、大学に行く気がなくなる、自信がないから学業以外の他の事にチャレンジしようと思えない・・・と引きこもりのスパイラルに陥りました。結局、3年近く引きこもってしまったのですが、自分が嫌で嫌で仕方ない、と思っていましたからその間の生活は苦しいだけでした。それでも自分に自信がないと他の事にチャレンジできない、それが私の引きこもりという状態でした。
    ちなみに、高校時代までの私はわりとクラスの中心にいるほうで、まとめ役を任され続け、現在も毎年高校の同窓会の幹事を任されているのですが、高校の恩師に言われた言葉が、「お前が引きこもるとは、想像もしてなかった」でした。もちろん、皆さんにも色々な苦しみ、思いを抱いておられることがあるでしょうし、私のこの経緯など、自分に甘いからだ、と思われると思います。そのとおりで反論のしようもありません。
    そんな中、とりあえず面談しに俺のところに来い、と声をかけていただいたのが粟津先生でした。まずおっしゃられたのは「とりあえず大学に来て、授業の後は粟津研で時間を過ごせ」でした。最初は暗い奴だと思われたと思いますが、皆さんに話しかけられたりしているうちに、自分を気にかけてくれる人がいる、という当たり前の事に気づき、少しずつ自分を取り戻せたと思っています。粟津研、全ての方に感謝しています。

    今、私は飛鳥メディカル株式会社の技術部の1人として、時間がかかってしまっている案件もあり焦燥感に駆られることもありますが、非常に充実した毎日を過ごしています。研究に行き詰まったり、苦しい思いをしている人もいると思いますが、精神面で私が言ってあげたいことは一つ、「人生って一回きりしかありません。自分が苦しんでいるのと同じ時間に、同様に苦しんでいる人もいれば、楽しいと思っている人もいます。楽しいと思えるのが自分であって何が悪い?他の人が楽しんでいるのなら、自分も楽しいと思いたいじゃないか。楽しいと思いながら過ごさないと損だ。」もちろん取り組まないといけないことを投げ出して他の楽しい事だけをやれ、というのではありませんし、大変なことに変わりはありませんが、そんなポジティブシンキングでいるのもアリじゃないでしょうか。
    ちなみに、自分が誰かの役に立てる、という実感が自信につながるのですが、私にとって粟津研での「自分がやってあげなきゃ」という実感の一つが、ゴミの廃棄や週末のシンク排水溝の清掃や定期的なお手拭タオルの交換、でした。結構、長い間同じタオルがかかったままだったりしましたからね・・・そういうことが苦にならない性分ですので、なんということはありませんでしたが。勉学を司る「輪講係」、研究室の大事なイベントごとを司る「旅行係」などに並ぶ重要ポスト「庶務係」に任命されていましたから、庶務係のお仕事として引き継がれていることと思いますが、少なくとも医療に携わる研究室ですので、皆さんが衛生面に気を配れるようになって下さい。

    さて、私の経歴、(開き直りの?)精神論などはこのくらいにして、ここからは先輩諸氏のごとく、社会での仕事について述べてみたいと思います。とりわけ、私の勤める飛鳥メディカル株式会社はいわゆる中小企業の中でも小さい部類ですので、他の方と少し違った部分もあるかと思います。
    弊社は主に半導体レーザを用いた医療機器の製造業、製造販売業者です。ホットチップ型レーザメスやLLLT(Low Level LASER Therapy / Treatment)を利用した獣医向けの医療機器の製造開発、販売を行っています。また、本年度中を目標に、製品のヒトへの使用拡大を目指しています。私の仕事は医師のニーズの収集から、製品の企画、設計、必要なシーズをもつ企業へのコンタクトにパーツ試作依頼、試作パーツの組み立て、試作品の性能評価、改良、治験の計画~薬事申請、量産時の価格見積もり依頼、製造、品質保証、梱包、販売業への製品出庫、といった製品開発のほぼ最初から最後までの大部分に携わります。弊社は従業員数が20人にも満たないほど小規模であり、技術職に限れば私を含め6名しかおりません。人数が少ない分、各個人に要求される仕事は多岐にわたります。この点が技術営業職、研究職、開発職、製造職などに分かれている中~大企業とまるで異なる部分だと思います。今現在、私が手がけ、量産にこぎつけた製品はまだありませんが、手がけた製品がこの過程を進んでいくことを実感できる点は非常にやりがいを感じられ、忙しいながらも充実した毎日を過ごせている、と感じています。福利厚生などに劣る面もあったりするのでしょうが、様々なことに取り組める今の仕事を楽しいと感じています。

    さて、大学での研究と仕事は何が違うでしょうか?3点ほど挙げてみたいと思います。
    まず、第一に、成果に対して、それが一定の区切りを迎えていなくても、進んでいる、という事実に対して(多かれ少なかれ進捗状況への檄はあれど)お給料が出ます。また、新製品を市場に投入しそれが好評であれば、会社の業績があがり、ボーナスや新しい設備の購入につながります。新しい機器、器具を用いれば、もっと違うものを作ることもできるじゃないか、とモチベーションが上がります。アルバイトをされている方にとっては、働いた分お給料が出ることは当たり前と感じられるでしょうが、自身が生活の主としている研究でお給料が出るという点は、少なくとも私にとっては心地よさを感じました。
    しかし決定的に異なることがあります。それはどんな些細なことにも責任があるということです。特に他社との約束は当然破ることはできません。ただ担当者同士の問題、では済まず、企業と企業の信用問題になります。出来ない点が出てきたなら、どこがまだ出来ていないのか、もう少し時間があれば出来るのか、それとも無理なのか、最低限それを伝えなければなりません。現に、私が金属加工をお願いしている会社の担当の方で、弊社との間では問題はなかったのですが、他の企業との間で連絡に不備がありその企業に迷惑をかけてしまい離職を余儀なくされた方もいます。その担当者と打ち合わせを行った1週間後に、その企業の上長と後任の方が、急な担当者の交代をお詫びに来られ非常に驚きました。そのぐらいシビアなことでもあります。よく報・連・相、と言いますが、就職する前と後では、まるで重みが違って感じられるはずです。私が研究室でまるで出来ていなかったことで偉そうに言えることではありませんし、皆さんは出来ている方も多いと思いますが、特に就職間近のM2の方は心しておいて下さい。特に、研究室での日々を振り返ると、「相談」の面で足りない部分が多いのではないでしょうか。先生方と生徒の間だけでなく、生徒間においても、です。社会で契約を結ぶとき、当事者同士で勝手に決めて帰るでしょうか?当然上役に相談するはずです。その時、上司が忙しそうにしているからと言って遠慮して相談しないでしょうか?有り得ません。B4の方は先生、先輩の時間を取らせることに遠慮するのではなく、かかる時間を少なくできるよう、何の件であるか、どのような状態でこの点に引っかかっている、ということを簡潔にして持っていきましょう。また、相談を受ける側にはいかに相談されやすいようにするか、それが求められると思います。
    3つ目ですが、これは職種にもよるかと思いますが、多かれ少なかれ、1度にいくつもの案件を抱え、同時並行で進めていくこともある、という点です。現に私は今、試作案件で5件、購入機器の選定で3件、基礎データの実験案件で3件といった具合に、10近い案件を同時進行しています。それぞれの案件ごとに違う会社から電話がかかることもあり、「もしもし、お電話変わりました、山田です。いつもお世話になっております」と挨拶している間に、何の件での電話か、ぱっと頭の中を入れ替えないといけなかったりします。相手側から「~~の件ですが、その後どうなっていますか?」と尋ねられた時に「何のことですか?」などと言えませんから。それに対応できるようにするには、いかに整理できているかが重要になります。私の場合、案件ごとに進捗具合を書き出し毎朝確認するなどしていますが、研究においては、工程表管理もいい練習になるのではないでしょうか?

    読み返してみると、かなり長文になっていました。わかりやすいよう書き連ねたつもりですが、簡潔には程遠い文章ですね。まだまだ学ばねばならないことが山ほどあります。切磋琢磨しながら頑張りましょう。これからもOBとしてちょこちょこ顔を出させていただきますので、宜しくお願い致します。
    長文、失礼致しました。

2013年1月31日
山田 啓一郎

寺田 隆哉(独立行政法人日本原子力研究開発機構敦賀本部レーザー共同研究所)

寺田先輩

    2009年4月から2011年3月までポスドクとして粟津研にお世話になった寺田隆哉です。現在は日本原子力研究開発機構敦賀本部レーザー共同研究所に勤務しています。この場を借りて、これまでのOBOGより上の世代である私が普段感じていることを述べたいと思います。

    私は現在、プラント現場で使用するレーザー溶接装置の開発に取り組んでいます。研究は技術スタッフに協力してもらいながら行っています。彼らは修士、博士の学生と同年代ですが、装置のメンテナンスをしたり、レーザーとその他機器の同時制御プログラムを作製したりと非常に優秀です。彼らは大学で学問を学んだわけではないですが、新しいプログラミング言語の習得や電気工事士の資格取得など技能、技術の学習意欲は高く、私も負けられないと日々感じています。彼らの協力を得る上で気を付けていることがあります。彼らは所属する企業と機構の契約に基づいて業務を行っており、最終的に報告書の作成が求められています。一方、独立行政法人の研究機関に所属する研究員として私に求められるのは外部への研究成果の発信であり、具体的には論文執筆や学会発表になります。あくまで彼らは私の部下ではないため、自分の研究のためだけに協力を要請すると下手するとパワハラになります。お互いの協力を報告書作成と論文執筆という双方の利益につなげるためには、相手の立場や状況を理解し、意思疎通を図ることが重要です。これには上司を含めて事前の計画打ち合わせを定期的に行う必要があります。研究室で行われるミーティングも同じように先生方、学生諸君という違う立場の人間が双方の利益を引き出すための場です。先生方から一方的に言われるだけでなく、自分の意見や考えを積極的にぶつけてください。ただし、その際は相手の立場を考え、どういった意図での指示や意見なのかを理解した上で発言することを心掛けてください。

    さてみなさんは大学の価値をどう考えているでしょうか。入試難易度の高い大学=いい大学とされている風潮もありますが、学習する環境が大学の価値を決めると私は思っています。優秀な先生がいる、優秀な同僚がいる、いろいろな実験装置がある、自分の研究室にない装置を近くの研究室で借りることが出来る、取得できる文献、論文が豊富である、奨学金や研究活動助成金が多くある、留学するための支援制度がある、多くの医師や企業と連携できる等々、人的、物的、経済的な学習支援環境こそが大阪大学の価値であり、粟津研の価値です。恥ずかしながら私は大阪大学の学生として過ごした間はその価値に気付くことができず、活用できていませんでした。在学生にはこのいい環境を積極的に活用し、自分の価値を高めてください。

    最後に粟津研OBOGのみなさんへ、卒業してからもぜひ機会を見つけて研究室に立ち寄ってください。退職後に特に用事がなく訪問できる職場はほとんど存在しませんが、大学はそれができる場所です。特に粟津研は飲み会などのイベントが多いので訪問しやすいと思います。在学生はOBOGが訪問したときにはぜひ積極的に話しかけてください。仕事と関係なく年齢、立場の違う人間と交流できることはお互いにいい刺激になります。私は現在も招聘研究員として粟津研に関わる立場にあり、研究室に立ち寄ることも多々ありますので、その際はぜひ声をかけてください。

2012年8月3日
寺田 隆哉

藤本 尚弘(現 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医療機器審査第三部)

    2010年度卒業生の藤本尚弘です。2008年4月から2011年3月までの3年間粟津研究室でお世話になりました。現在は、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency; PMDA)の医療機器審査第三部で、医療機器の承認審査業務に携わっています。粟津研を離れて1年が経ちましたが、今、自分の研究室生活を振り返ってみて、粟津研に在籍する皆様にお伝えしたいことを書きます。私をご存知の方は「何を偉そうに…」と思うかもしれませんが、お付き合いください。

    毎日の研究生活の中で、常に「目的」を意識してほしいと思います。自分の研究は、社会にどう貢献できるのか?ということを考えて欲しいです。
    研究室に籠もって実験を続けていると、どうしても視野が狭くなってしまいがちです。週報が書ければ良い。月報に耐えられるだけのデータが出れば良い。など、目の前のハードルを越えることだけに集中してしまう時もあります。しかし、そうではなくて、もっと広い視野で自分の立ち位置を知って欲しいと思います。
    自分が今必死になって出そうとしているデータは何のためなのか?そのデータがあればどんな課題がクリアできるのか?他にどんな課題があるのか?それらの課題をクリアした先にある最終目標は何なのか?その研究成果はどんな人から求められているのか?ということを意識してください。論文を読んだり、学会に参加したり、外部の方とミーティングしたり…きっかけはどこにでもあります。
    正直、粟津研に在籍していた頃の私はそこまで考えていませんでした。卒業するためにそこまで考えないといけないかというと、きっとそうでもないです。しかし、粟津研を離れてみて、こんな風に考えていれば自分の研究生活は全然違うものになったのではないか、と思う時があります。自分の研究生活に後悔はありませんが、自分の立ち位置を常に意識して取り組むことで、同じ研究でも、更に発展させることができた。…かもしれない。と感じています。

    実際に手を動かしていない人間の無責任な言葉に聞こえるかもしれません。それでも、お伝えしたいと思いました。まとまりのない文章で恐縮ですが、ここまで読んでしまったと諦めて、ほんの少しでもいいので意識してみてください。たった1人でも参考になった!と感じてくれる人がいれば幸いです。

    最後になりましたが、このような機会を与えていただき、ありがとうございました。なかなか大阪に帰る機会はありませんが、そのうちきっとまた現れると思います。その時はどうぞよろしくお願いいたします。

2012年7月9日
藤本 尚弘

小林 洋平(現 テルモ株式会社 研究開発本部)

小林先輩

    2010年度卒業生の小林洋平です。2005年に大阪大学工学部に入学し2008年から2010年の3年間粟津研究室でお世話になりました。現在はテルモ株式会社で働いております。もともとはエネルギーに興味を持っていたことから、大阪大学工学部電子情報エネルギー工学科(現環境・エネルギー工学科)に入学したのですが、医療への光応用に魅力を感じ粟津研究室で学びたいと思うようになりました。そしてその思いを持ち続け、現在医療に係わる仕事に就かせていただいております。現在の私があるのは貴重な大学生活があったからこそなのだと振り返るとそう思えてきます。大学生としての時間は自由度があり、また人生の中でも特殊な期間であると感じている私から、皆様にお伝えしたいことを以下に述べたいと思います。

   大学生活でやっておいた方が良いこと
   1.自分の考えを持ち伝えましょう

    このスキルは社会に出たときに非常に重要となるスキルだと日々感じております。チームの中で自分に与えられた事をしっかりやり遂げるということが第一段階、最低限の働きであり、そこにプラスアルファ自分の考えを盛り込み、効率化を図ることが次の段階になります。何事においてもさらに良いものを考えるという癖をつけましょう。きっと役に立ちます。また、ふと意見を求められるときがあります。そういったときに相手に分かりやすく的確に伝えるというのは案外難しいものです。どんな些細なことでもしっかり人の話に耳を傾け自分なりの答えを用意しておくということを心がけておきましょう。

   2.何かに取り組みましょう

    大学では時間はたくさんあります。研究に激しくのめり込むというのも良いと思います。時間の制限を受けず徹夜で実験に没頭できるのも大学ならではなので、時にはそういった状況を楽しむこともお勧めします。それ以外にも何か気になりやってみたいと思うことがあるならば、思い切ってやってみるのが良いと思います。仕事を始めると本当に自由な時間が減ります。さまざまなことに興味を持ち、チャレンジし没頭しましょう。自分の経験を豊かにすることにもつながり、社会人になったときの時間の有効活用にも役立つと思います。

   3.自分という人間を深く知っている友人を作りましょう

    大学での友人は一生の友人となるという話をよく聞きますが、その通りだと思います。たくさんの友達を作る必要はありませんが、自分のことを深く知ってもらえている親友を作っておくことは今後の人生の中での大きな支えになると思います。粟津研究室では本当に素晴らしい方々に巡り合うことが出来たと感じております。研究や研究以外でも大変お世話になった先生方、後輩として大変可愛がっていただいた先輩、趣味を共有して盛り上がった後輩の皆さん、泥酔したときに家まで運んでくれた命の恩人・・・今後もこのつながりを大切にしていきたいと思っております。

    最後にはなりましたが、OB便りを書く機会を与えていただけたことに感謝いたしております。大学生活を振り返る良い機会となり、そして粟津研究室では非常に充実した楽しい3年間を過ごすことが出来たとより一層実感いたしました。頼りないOBではありますが、またフラっと立ち寄ることがありましたら暖かく迎い入れていただければと思います。ぜひ、後悔のないよう「おもいっきり何かをやってみる」という心意気で研究室生活、大学生活を大いに楽しんでください。

2012年4月3日
小林 洋平

佐藤 出(現 京セラ株式会社 総合研究所)

佐藤先輩

    粟津研究室、そしてこのHPをご覧の皆様、はじめまして。2008年3月まで粟津研究室にお世話になっていた佐藤出と申します。現在、京セラ株式会社・総合研究所に勤めております。粟津研究室にお世話になった感謝も兼ねて、メッセージを送りたいと思います。京セラと聞いていろいろなイメージをもたれることと思いますが、あくまで個人的な意見なので、先入観なく読んでください。私が皆様にお伝えしたいことは、①企業での研究について、②説明することの難しさについてです。

    ① 私は企業の研究所にて働いておりますが、大学の研究室と大きく違うことは、自分が行っている研究・開発が事業として企業に貢献できるのかが求められることです。学生の皆様は自分の興味を優先することができ、様々な現象が生じるメカニズムの解明などの基礎研究にも従事することができているのではないでしょうか。しかし企業の研究室に属するとそのような「お金」にならない事はできません。常に「お金」に囚われるので嫌気も差しますが、自分が携わった製品が市場に出ることで、達成感を感じることができると思います。私が携わった製品は市場には出ていませんが…。

    ② 私が企業に入って困ったことは、人に話を伝えることのむずかしさです。粟津研究室では、週報会議や輪読、また積極的に学会に参加させていただけましたので、発表することには慣れているものと思っていました。しかし、いざ社内で発表してみると十分に理解してもらうことができません。なぜなら、研究室の会議も学会も、ある程度の知識を持っている方だけが参加するある種の閉鎖空間だったからです。ですから専門用語は当たり前のように使われていますし、これぐらいは知っているだろうと思って発表をしてしまいがちです。しかし、企業内で説明する際には十分な知識を持たない人に説明しなければなりませんし、ひどい時には数分で今の開発の必要性を説明しなければなりません。それでも、発表内容が十分に伝わらなければ、自分の開発は打ち切られてしまいます。だからこそ、シンプルに要点のみを伝える技術を身につけておく必要になるのです。今はそこまで必要になることはないかもしれませんが、学生の時から訓練する事も良いのではないかと思います。

    ちなみに、私は会社の制度を利用して海外大学院に留学する予定です。企業に入ってしまうと、日々の業務に忙殺されてしまいがちですが、常に自分を高める方法を考え続けることは重要です。私は英語が得意ではありませんが、このようなチャンスを掴めたのは、明確に自分の意思を上の方々にお伝え出来たことと、積極的に前に出たことだと思います。どのような状況に置かれても自分が何をしていきたいか未来形で捉えていくようにしてください。

    最後に、このような機会を与えて下さり有難う御座いました。粟津研究室のますますのご活躍をお祈りいたします。それでは、失礼いたします。

2011年11月6日
佐藤 出

月元 秀樹(現 NTTファシリティーズ中央 東京事業部)

    粟津研究室ホームページをご覧いただいております皆様、はじめまして。NTTファシリティーズに勤めております月元秀樹と申します。2010年3月までの3年間、粟津研究室にてレーザー血管形成術について研究をしておりました。今回は少し会社の説明と働いて学んだことについて述べさせていただこうと思います。

月元先輩

   1.会社概要

     NTTファシリティーズという会社は知名度こそ低いですが、NTTグループの中では唯一無二、他のグループ会社とは別の仕事を行っている会社です。NTTといえば、電話、インターネット等の通信インフラを思い浮かべる方が多いと思いますが、NTTファシリティーズはインフラのインフラを行う会社です。具体的な業務として2つあります。1つ目はNTTグループの建物の建設、管理です。皆さんの周りに見かけるNTTマークが入った建物(以後、局舎という)が私たちの会社が管理しているビルです。NTTの局舎は非常に高い耐震強度を誇っており、過去の阪神淡路大震災の時には1棟も崩壊することはありませんでした。また、一級建築士保持者数が全国1位ということで、高い技術力・ノウハウを持った会社です。2つ目は局舎内にある通信設備用の高信頼、高品質の電気を作ることです。まず、電力会社から購入した電気(6600 V or 22000 V)を通信設備が使う電気(100V)まで変換します。これは通常の大きなビルでも受電設備を持っており、同様の設備がNTT局舎にも配備されています。これでは、高信頼、高品質にはなりませんので、NTT局舎内に蓄電池を持ったUPS(インバータ)や整流装置(コンバータ)などを設け、電力会社の瞬停、波形のひずみなどに対応します。しかしながら、蓄電池だけでは長期停電には対応できないため、局舎内に非常用発電装置(ディーゼルエンジン、ガスタービンエンジン)を設け、独自に発電しています。では、さらに過酷な状態として、停電になり、非常用発電装置が壊れた場合はどうするか?という問題も出てきます。その場合にはトラックの荷台に発電装置を設置した移動電源車を稼働させます(図1)。125~2000 kVAといった多様な移動電源車があり局舎の容量に合わせてそれぞれを稼働させます。これにより、高品質、高信頼の通信用電気を作っています。

   2.学んだこと

     1年間NTTファシリティーズで働いて感じたことは通信を守るという責任感です。私たちが日常扱う装置は1つ操作を間違えると数千人、数万人の通信が止まることになります。事務仕事は間違えてもごめんなさいで済みますが、通信が止まると人の生死にかかわる可能性も出てきます。自分が今から行う操作は間違っていないと言えるか、あっていると言えるか常に考え、分からないことは明確にしてから操作を行うことが大切だということも学びました。また、今回の関東大震災では震災直後から全局舎の電力供給につとめました。茨城、栃木、群馬、千葉、埼玉、福島では停電となった局舎が多数あり、24時間体制で電気を供給し続けていました。被災地である宮城、岩手では長期の停電となり、全国から応援に駆け付け24時間体制で全局舎の装置確認、電力供給を行い、1カ月でほぼ全ビル電力供給を開始できました。しかしながら津波で流されてしまった局舎もあるため、ビルの新設、電力の供給、通信設備の稼働を目標に勤めております。NTTファシリティーズはインフラのインフラを支える業務を行う会社であり、責任という面では他の会社よりも比にならないと思います。その中でも全社員通信を守るという志は共通であり、絶対に止めてはいけないという思いの中日々仕事をしています。

   3.最後に

     長々とご覧いただきありがとうございます。学生の方へのメッセージとして、「わからないことは聞く」が一番だと思います。無知の知を理解し、多くを学ぶことが重要であると思います。(もし、聞いた方が答えてくれない場合は・・・)社会人になっても同じであり、何年たっても同じです。ただ、上に上がれば上がるほど聞きづらくなるものですが、「聞く」という行為は恥じではないので、いろいろ聞いてください。

2011年7月11日
月元 秀樹

木村 彰紀(現 住友電気工業株式会社 ライフサイエンス開発室)

    粟津研究室の皆様、並びにHPをご覧いただいている皆様、こんにちは。住友電気工業株式会社 ライフサイエンス開発室に勤めております木村彰紀と申します。粟津研究室には2009年3月までの3年間お世話になっておりました。この4月で入社から2年たち、これまでの生活に思うところを三つほど述べさせていただきます。

    一つめは目的・目標についてです。研究室での実験であれ、会社での仕事であれ、また私生活であれ、私たちが行動するときには何かしらの「目的」があります。これは字面に沿っていえば遠くにある”的”であり、そこに狙いをつけて近づけていく先になります。これに対して「目標」もよく使いますが、こちらも字面で解釈すると”標(しるし)”であり、ある状態や数値など、具体的なもの・ことが示されます。イメージとしては「目的」という的に向かう道のどこかに「目標」がある、といった感じでしょうか。研究室での実験や、私たち若手の社会人の業務であればこの「目標」は上から降ってくることがあるかと思います(もちろん自分自身で設定することも多々あるかと思います)。このとき、この「目標」さえ達成すればよいという考えになってはいないでしょうか?確かに自分よりずっと知識も経験もある上司が設定した目標であれば、それをクリアすることで目指す目的に近づくことができます。しかし、ただひたすらに目標をクリアすることだけを考えて働き続けるには限界があるのではないかと思います。いくら頑張っていても、肉体的・精神的につらくなってくると自分のモチベーションを維持するのが難しくなります。モチベーションが落ちると作業効率も落ち、目標達成に時間がかかったり期限内に達成できなくなったりしてさらにモチベーションが落ちる、という悪循環のサイクルにはまりかねません。こういった状況に陥らないために、目標を達成するうえで自分なりの「意義」を見出すことが大切ではないかと考えています。これはつまり、『この目標を達成するのは何のためか?』という問いに対する自分なりの回答を見つけるということです。個人的には『世のため人のため、そして会社のためになる製品を作る』ことが目標達成の意義になっています(この言葉自体は会社の先輩からの受け売りで恐縮ですが・・・)。こうした自分なりの意義を持って取り組むことで、結果としてより早く目的に近づくことが出来るのではないかと思っています。

    二つめは時間についてです。大学の研究室で生活していると時間感覚がだんだんルーズになりがちですが、就職してから時間に関する意識はかなり変わってきました。フレックスタイムや半休等もありますが、基本的には1日8時間+α、1週間で40時間+αが会社での仕事に費やされます。この中で自分の受け持つ作業を割り振って、期日までに求められる成果を上げなければいけないわけです。粟津研では当時、Excelで線表を書いてスケジュール管理をしていましたが、皆さんは活用できているでしょうか。私は恥ずかしながらあまり活用できていなかった口なのであまり大きなことは言えないのですが、先の「目標」を達成していく上ではこのスケジュール管理がとても重要です。求められるアウトプットを出すために必要な作業と機材を見積もり、期日から逆算して「いつまでに」「何が必要で」「何をして」「どんな状態にしなければならないか」を決め、次の1か月間の作業内容を考え、そこから1週間に割り当てられる作業、そしてさらに具体的に1日に行う作業、と細かくブレイクダウンして、タスクリストに落とし込む。それを元に実際に作業を進めて、予想外のトラブルが発生した場合はその分の遅れをどこで吸収するか再度割り振る。これが出来ていないと行き当たりばったりに作業を進めた挙句、トラブル対応に時間をとられ、最終的に期日になっても目標に未達、ということになるわけです。当たり前と言えば当たり前のことを偉そうに書いていますが、私自身も知識と経験の不足からなかなか先々の見通しが立たず、周りの方々に助けていただきながら計画を立てている状態です。ですが、こういったことを意識して進めるのとそうでないのとでは最終的なアウトプットに確実に差が出ると思います。最初はざっくりとでもよいので、全体の時間軸を意識して「いつまでに」「どんな状態にする」ということを書き出して整理してみてはどうでしょうか。

    三つめは読書についてです。もともと本を読むこと自体は好きでしたが、大学では他のことにかまけていて、それほどたくさん読んだ、という記憶がありません。そこで最近はできるだけ時間をとって本を読むように心がけています。業務で必要になる専門分野の本はもちろんですが、それ以外にも自己啓発、技術論、経済、経理、マネジメント、企業戦略、コミュニケーション、などなど興味を引いたものからどんどん読むようにしています。人間一人が頭をひねっても、考えを巡らせることが出来る範囲というのはごく限られたものでしかないと思います。それでは自分でカバーできない分はどうするかというと、その道の先駆者が書いた本を読み、その考え方に触れることで多少なりとも補っていけるのではないでしょうか。他者の思考なので全てを丸ごと理解するというわけにはいかないでしょうし、『それは違うだろう』と思うところもあるでしょうが、きちんと読めば多かれ少なかれ、何かしら得るところがあると思います。特に、ある分野でいわゆる「古典」とか「名著」として何年も読み継がれるような本は、時間の経過による形骸化を乗り越え、なおその価値を失わない貴重な知見が詰まっています。どんな分野にもこういう本は必ずあるはずですので、古典なんて古臭いと思わず、一度手に取ってみてください。仕事が忙しかったりするとだんだん読む気力も落ちてきますが、そんなときでも続きが気になると思うような面白い本、良い本であれば少しは読み進められると思います。そうやって少しずつ読書を習慣化していくと、いずれその蓄積した思考の断片が連鎖反応を起こして新しい発想や着眼点につながっていくのではないかと思います。

    思いつくことをつらつら書いていたら結構長くなってしまいました。あまりまとまっていない気がするので恐縮ですが、読んでいただいた方に少しでも参考になるところがあれば幸いです。個人的に、今後とも粟津研究室には何かとお世話になる機会が多いかと思います。その際にはどうぞよろしくお願いいたします。

2011年4月29日
木村 彰紀

春名 延是(現 三菱電機株式会社 先端技術総合研究所)

春名先輩

    粟津研究室の皆様、またHPをご覧になられている皆様、こんにちは。修士課程の2年間(2008年卒業)、粟津研究室でお世話になりました春名延是と申します。社会にでてからこの春でちょうど3年になりました。この3年間を振り返って、仕事をする上で重要だと思うことを書かせていただきます。後輩の皆様の今後の学生生活に少しでも参考になれば幸いです。

   ・アウトプットの期限と価値を考える

    私の仕事では1)目的、目標を決め、2)知識をつけ、3)アイデアをだし、4)解析や実験をして最後に5)結論(アウトプット)をだすのが基本スタイルです。(皆様の研究と比較的近いと思います。)私は過去に自分のアウトプットの質に全く自信がなく、2)~4)に時間を費やしすぎた結果、期限を大幅に超え、その結果、出したアウトプットに全く価値がなくなった苦い経験があります。やはり社会にでると期限の重要性は増します。「期限」と「質」はアウトプットの価値を決める上で重要であり、かつバランスをとるのが難しい要素ですので学生時代から区切りごとに期限を決め、期限内でそのとき出せる最高の質のアウトプットを出す訓練をしておくといいかもしれません。

   ・自分を磨き続ける

    期限を守らなければアウトプットに価値がなくなりますが質を上げる自分磨きを怠れば、アウトプットの価値を高めることが難しくなります。5年後、10年後の目標を定めて、自分磨きを続けることは間違いなく大切です。時間のある学生時代に自分磨きを習慣にできていれば社会に出た後も続けることは難しくないと思います。忙しい日々の研究室生活の中でも、たまには未来の自分をイメージしてみて、自分の目標は何か、今からできることはないかを考える時間作ってみてください。

   ・自立

    就職して、仕事をして、お給料をいただいて生活すること。これが自立することだと思っていました。がこれだけでは「自分の足」で立っている感覚はありませんでした。恥ずかしいことに今もありません。。自分を磨き続けて、些細な環境の変化にも動じず、自分の人生をコントロールできる力をつけることが「自立」であり、「自立」に少しでも近づくことが充実した人生が過ごすために不可欠なのでは?と最近よく思います。

    まとめると、
    「目標をもって自分を成長させ続けてください!」かな?これが今の私が後輩の皆様に送るアドバイスです。(なんか当たり前ですみません。)最後になりましたが、このような執筆の機会をいただいた粟津研究室の皆様に感謝いたします。自分自身を振り返るいい機会にもなりました。また、近いうちに皆様とお話できることを楽しみにしております。

2011年 4月16日
春名 延是

鈴木 れん(現 株式会社フジクラ 情報通信事業部門 光応用製品事業推進室)

鈴木れん先輩

    粟津研の皆様、またHPをご覧になられている皆様、こんにちわ。株式会社フジクラ 光応用製品事業推進室で製品開発をしております、鈴木れんと申します。粟津研究室には平成21年3月までの3年間お世話になりました。フジクラって何してる会社?と思われる方も多いと思いますので、簡単に説明させて頂きますと、主に光ファイバーや、FPCと呼ばれる薄くて曲げられる配線基板、電力ケーブルなどを作る“ものづくり”の会社です。OG&OBからの便りということですので、粟津研の一先輩の立場から学生の皆さまに向けて、このものづくりの技術とその思いについてお話しさせていただければと思います。

    皆さまはものづくり力があるってどんなイメージをお持ちですか?私は入社してから現在に至るまでの間に、ものづくり力についての考えが大きく変わりました。入社当初は、他の会社で作れないものを作れることが、ものつくり力があり、技術力のある会社だと思っていたのです。もちろん、そのような力がものつくり力、技術力であるのは確かです。しかしながら、仕事をしていくうちに、ほとんどのメーカーがそのメーカーでしか作れない技術をもっていることは稀で、もっていたとしてもすぐに解析され、技術的に追いつかれてしまうことが多く、技術的に大差のないのがほとんどだと思うようになりました。近年の中国のコピー商品問題のように、出来上がっている製品やものをコピーすることは大して難しいことではなくなってきています。このような状況の中で、メーカーにとってのものづくりの技術というのは、お客様のこうしたいという要望や問題に対し、限られた時間の中で、他社よりもいかに優れた提案やソリューションを作り上げていけることなのではないかと思うようになりました。

    開発の仕事をしていると、技術的な提案やソリューションの提供で他社に負けるのは非常に悔しいもので、逆に、他社より優れた評価をもらえると非常にやりがいを感じます。最近、日本のものつくり力を危ぶむ声をよく聞きますが、ものづくりの技術は、その時売れるものや、出来上がった製品をコピーすることではなく、お客様のニーズをつかみ、提案やソリューションの提供を積み重ねていくことで蓄積されていくと思います。20~30年先も、やはり日本のものづくり力は凄いと言われる様に日々努力しています。

    今後、皆様が研究職や開発職、または全く違う別の職種に進まれるかもしれませんが、今は、大変な思いや苦しみながらしている研究を頑張ってください。きっと社会人になってから自信になります。後で学生のうちにやっておけばよかったと思うことはいっぱいあるかもしれませんが、やり通したと自信をもてることの方が大事だと思います。本当に必要なことだと思えば、社会人になってからでもできます。社会人になる前の土台“自信と自分で考える力”を粟津研でしっかりと培ってください。それができる研究室だと思います。

    最後に、研究者は無理をしがちですので、心と体の健康に十分に気をつけてください。社会では、自身の管理ができることも大切です。皆さまのご活躍を心から楽しみにしています。

2011年1月12日
鈴木 れん

二宮 賀久(現 関西電力株式会社 美浜発電所)

    粟津研の皆様、そしてこのHPをご覧になられている皆様、こんにちは。関西電力株式会社 美浜発電所で勤務しております、二宮 賀久と申します。粟津研究室には平成20年3月までの3年間お世話になりました。研究室生活を振り返ると、ここで大きな事を言えないような生活を送っていました。なので、控えめなメッセージを送りたいと思います。テーマは「自立の大切さ」ということで。

    社会人になって3年、「自立」についてよく考えました。
    今、皆さんは先輩や先生方からやるべき事について丁寧にフォローしてもらっていませんか?僕はよく皆さんに助けられました。時には怒られることもあるかと思います。研究の方向性について自ら報告しなくても呼び出されて報告を求められたり‥論文を読みなさい、と関係する論文を渡されたり‥他、多くの指導、アドバイスがあるかと思います。

    社会は違いました。助言がないということではないのですが、自ら何かを発信しなければ仕事が前に進みません。必要となる資料を探し、勉強し、それを基に成果として上司に提出する。分からないことがあれば、適当な人に助言を求める。しかも、一つの案件に多くの時間を費やせません。上司から呼び出されて「どうなってる?」と聞かれた時はもう「仕事が遅いよ」になってしまいます。怒られることもないので(逆に、怒られた=取り返しがつかないということですが‥)ついつい気が緩んでしまいがちになります。「まぁまだ後でもいいか」なんて。重要なことは、途中経過でも良いのでなるべく早く自ら報告することかなと思います。

    また、自己啓発も求められます。自己啓発は仕事より大変です。誰もプレッシャーをかけてくれず、結果だけが評価対象となります。もう皆さんも分かるかと思いますが、重要なことは、仕事から疲れて帰った時にでも自分で自分をコントロールすることです。

    自立できる、それが社会人かなと思います。今一度研究室生活を見つめ直して頂ければ幸いです。ただ、残りの学生生活も十分に謳歌して下さい!これも後々の人生を考えると非常に大切かと思います!それではまたお会いできる日まで。失礼いたします。

2010年12月21日
二宮 賀久

藤田 珠美(現 株式会社島津製作所分析計測事業部ライフサイエンス事業統括部)

藤田先輩

    粟津研究室の皆様ご無沙汰しております。(あ、初めての方もこのページを見てくださっているのかもしれませんね。はじめまして!)株式会社 島津製作所 分析計測事業部に勤めております、藤田 珠美(ふじた たまみ)と申します。粟津研究室には、2007年4月から2009年3月までの2年間お世話になりました。大学院での2年間、私は主に「質量分析」について研究を行っていました。「質量分析」って?と思った方は、googleで検索していただくとして、とにかく、この2年間の学生生活は、今の私に大きな影響を与えていることは間違いありません。そして、今、まさに「研究がんばってます!」という学生の皆さんにも、きっとこれからの進路に大きな影響を与える期間になると思います。この貴重なスペースをお借りして、私も粟津研での学生生活を振り返りながら、経験や教訓を交え、少しでも皆さんに「社会人ってこんなもんなんや」ということが伝えられればいいなと思います。拙い文章ですが、何卒ご容赦ください。

    卒業後、会社に入って思ったことがあります。それは、研究室もちいさな「会社」であり「社会」の「一部」であるということです。研究室では先生方はじめ、先輩や後輩が居られ、またお隣の研究室や、ライバルの研究室があると思います。会社も同じです。研究室より規模が大きくなっただけ。先生方が上司で、先輩社員がいて、同期がいて、そろそろ後輩も入ってきます。お隣には、別の部署や、事業部があります。また、競合他社さんがいます。同じ構図です。その中で自分をいかに表現するか。やりたくないなと嫌々過ごすのもよし、周囲の反感の中、自分のヒラメキを信じるもよし。研究室にいる間にいろんな場面での対処法を試行錯誤しておいて下さい。研究がうまくいかなかったり、時には人間関係で悩むことがあるかもしれません。でもそれは、今後も「社会」に自分が存在する限り、当たり前のことだと思います。落ち込んだり、失敗したりした後に、「次の一手」をどうするか。それが、その人の腕の見せ所、オリジナリティだと思います。幸い、粟津研究室には、仲間同士で足の引っ張り合いをする人はいないでしょう。そのような環境にいるうちに、たくさん失敗して、悩んで下さい。会社に入れば足の引っ張り合いをする人はザラにいます(泣)。そんな逆境に屈しない人に皆さんにはなってほしいと思います。
    ちなみに私は今、失敗と、成功の繰り返しです。でも、おかげさまで、失敗したときに次どうするかを「導き出すことができている」という感じです。とても抽象的な表現をしましたが、感覚的なものです。そんな感覚を皆さんにも持ってほしいと思います。すると、失敗は自分の腕の見せ所だとポジティブに思考を変換することができます。だから、前に進めるんだと私は思っています。

    今度は、少し具体的な話をしましょう。わたしは今「LCMS-IT-TOF」という質量分析装置の電気系について担当しています。電気回路は好きですが、単位を習得するために勉強した程度で、設計なんてしたことありません。だから、毎日勉強です。これは本当です。「仕事」=「勉強」の時間も多いです。技術職に就職される方は覚悟しておいてください。会社に入ってからも勉強です。わたしの尊敬する電気技術者の方も「一生勉強や」とおっしゃっていました。(その時、その方がそうおっしゃたので諦めました。)でも、講義があるわけでないので、受身ではなく、自分で手を動かす、調べる、人に聞くという作業の繰り返しです。特に、「LCMS-IT-TOF」は「IT=Ion Trap」と「TOF=Time of Flight」を組み合わせたハイブリット装置なので、初めて目にしたときは複雑で、自分の手に負えないかもしれないと思いました。でも、今はそれがやりがいになっています。その理由は、自分で手を動かす、調べる、人に聞くという作業ができているからだと思います。(これって今皆さんが、研究室でしてることと変わりないでしょ?)最近では、他の部署の方から「○○のこと訊きたいんやけど藤田さんいる?」と電話がかかってきます。「LCMS-IT-TOF」について知識や経験値が上がってきて、少しずつ仕事ができるようになってきたのかなと思います。近いうち、生まれて初めて電源の設計をしそうです。自分が設計したものが世の中に出て、お客さんに使ってもらえることを想像すると今からワクワクしています。

    もうひとつ、皆さんに伝えておきたいことがありました。それは、「粟津研のしんどさ」です。粟津研はたぶんハードな研究室だと思います。日々の研究以外にも、勉強会があったり、週報や月報、定期的に研究報告会もありましたっけ? 学会にも積極的に参加していますね。でも、2年間しか在籍してない私ですが、粟津研でやってきたことが、今「会社」のなかでも役立っています。入社後すぐの研修で、「議事録」の書き方という実践演習がありました。その演習で作成した「議事録」が、よく書けていると評価されたことがあります。粟津研ではラボミーティングで「議事録」を書いているでしょ?だから、普通にできるのです。「当たり前にできること」ほど強いことはありません。「報告会」などもそうです。場数を踏めば発表の仕方も自然とうまくなります。これらは、ほんの一例です。他にも粟津研で練習しといてよかったと思うことはたくさんありました。だから皆さんも粟津研で「修行」してきてください。きっと「社会人」ってこんなもんかって思えると思います。

    最後に、人事部の方がおっしゃっていました。新入社員のほとんどが、「学生の頃に戻りたい」と言うそうです。でも、それは誰にも不可能です。皆そんなことはわかっていてもそう言うそうです。だから、目一杯「学生生活」を送ってほしいと。私も切にそう願います。
    それでは、くれぐれもお身体には気をつけて。皆様のますますのご活躍を心よりお祈り申し上げます。

2010年7月4日
藤田 珠美

冨岡 穣(現 独立行政法人医薬品医療機器総合機構医療機器審査第一部)

冨岡先輩

    粟津研の皆様、こんにちは。平成19年4月から平成21年3月までの3年間粟津研でお世話になりました冨岡と申します。現在は、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency; PMDA)の医療機器審査第一部で、医療機器の承認審査業務に携わっています。粟津研を離れ、1年が経ちました。この1年で考えたこと、私が粟津研にいた頃に考えていたこと、少しだけ皆様にお伝えしようと思います。そして、これからの学生生活が充実したものとなるよう、また私が体験したことから、これから先に待ち受ける困難に対する準備のきっかけとなれば、嬉しく思います。ただし、先にお断りしておきますが、ここに書いた内容は全て私の個人的な体験によるもので、必ずしも全ての人にあてはまるわけではないということだけ、ご理解ください。

   1.責任の重さ

    まず、社会に出て、学生時代との違いを実感したこと。それは責任の重さです。いただける給料の額や給与体系は違うかもしれませんが、労働の対価を金銭という形でもらえる点は、アルバイトも仕事も変わらないと思っています。しかしながら、そこに発生する責任の重さは大きく変わると考えておいたほうがいいです。世の中には結構重大な責任を負うアルバイトもあります。研修医の当直のアルバイトなんかがそれにあたると思います。しかしながら世の中のほとんどのアルバイトはそんなに重大な責任を負うことはありません。M2の途中くらいまで、夜遅く(もしくは朝早く)まで研究室に残ることが多かった私ですが、社会人になった今は、そんなに長い時間今の業務をずっと続けることが困難です。多分、もう少しこの仕事に慣れてくれば、前みたいに長時間の業務をこなすことができるようになってくるかもしれませんが、今はこの緊張感のある業務を12時間以上連続することは極めて難しいです。やれなくはないですが、単発の期限がある仕事に対しては有効でも、長期間にわたっての継続は難しいと感じています。それが責任の重さだと最近思っています。社会人になって最初のうちは、以前のように長時間の業務をこなせない自分がサボっているような感覚に陥り、自己嫌悪してみたり、無理して長時間の業務をこなして、残ったのは時間の浪費と心身の衰弱だけだったり…といろいろ試行錯誤した結果、分かったのは責任の重さが心身(特に心)にストレスを与えているということです。

   2.理想の仕事人

    私は幸いにして研究室での生活はそんなにストレスのかかるものではありませんでした。疲労が溜まったり、嫌気がさしたりすることもありましたが、それはストレスではありません。それを理由に自分の仕事をやらないのはただのサボりでしかありません。ですが、皆さんの中には研究室生活において、すでにストレスを感じている方がいるかもしれませんが、それは自分でコントロールしないと誰もコントロールしてくれないということをしっかりと自覚してください。コントロールの方法は様々だと思いますが、研究室に四六時中いることを私はお勧めしません(あくまで私見です)。研究室にいる時間を自分で決めて、その時間を過ぎたら必ず帰るようにしていれば、研究室にいる時間に仕事を集中的にこなすことになり、結果的に効率は上がるものと考えています。私がM2の途中からそれを実践していました。いろいろな私的な事情によって、あまり遅くまで残るのが好ましくない状況になって、それまでと比べてトータルの仕事量は落ちたかもしれませんが、仕事の密度は増したと思います。(ここからが大事です)しかしながら、最低でも与えられた仕事が終わらないのに帰るのは良くないです。与えられた仕事を自分で決めた時間内に終わらせる。これを目指すべきです。仕事にはクオリティーも大事ですが、同じくらいスピードも大事です。研究や開発という役割を担っている皆さんは、社会全体から見てもクオリティーとスピードの両立が求められる立場にいると考えてください。
    そして、こんな密度(クオリティー×スピード)を求められる殺伐とした世の中だからこそ、「人とのつながり」とそれに対する「感謝」を忘れない人間でいてください。仕事人である前に、人であってください。

   3.自分の役割

    今、皆さんは社会全体の流れの中で研究という一部分の仕事を任されています。工場で、原材料から最終製品ができる「製造ライン」を社会の中での物事の流れに例えると、原材料が皆さんの頭の中に浮かぶアイデアで、最終製品が人々の喜びです。全体を俯瞰して、自分が全体の流れのどの部分を担っていて、その担った仕事において何が重要で何を求められているのか、社会の中での自分の役割が何なのか、よく考えてみてください。製造ラインで、ある工程からある工程へ部品を移す際、受入検査が行われます。次の工程に回すために必要な仕様を満たしているか、検査され、仕様を満たしていないものは次の工程へは回されず廃棄されてしまうか、再度作り直すことを求められます。何が言いたいかはお分かりだと思いますが、自分の次の工程を担う人へ自分のつくった部品を受け渡す際に、その自分のつくった部品を捨てられたり突っ返されたりしないような部品をつくることが大事だということです。それが、社会が皆さんに求めていることです。そのためには最終製品として何をつくりたいのか、そのために部品はどのような仕様を満たしていないといけないのか、きちんと見定めることが大事です。誰も求めていないような最終製品を目指して部品をつくっても受入れられませんし、最終製品が求められるものでも、仕様を満たさない部品は突っ返されます。

   4.始まったら終わる

    物事は始まったら終わります。普段は特に意識する必要はありませんが、何かに行き詰まったとき、このことを思い出してほしいです。人生がそうであり、大学生活がそうであり、研究室での生活がそうです。世の中のありとあらゆるものがそうです。栄枯盛衰とは少し意味が違います。現代の自然科学を以てしても、時間の流れが絶対的である以上、始まってしまえば必ず終わりがくるということです。何が言いたいか…行き詰まったときに思い出してほしいと書きましたが、どんなに苦しいときもいつかは終わりが来るのだから、自分が成長するための修行だと思って、とりあえずがんばれば、いつかその苦しみは終わるのです。大学生や大学院生にとって、社会に出るときの関門である「就職活動」や「卒業論文・修士論文・博士論文の執筆」もそうであることを知ってください。ある歌の歌詞(「かし」とキーボードを叩いて変換キーを押して最初に出てくるのが「可視」なのは皆さんも同じでしょう)にもあるようにやまない雨はありませんし、雨の後にしか虹は出ないのです。いつか終わりが来る苦しい時間の後に虹が見られるように、淡々とがんばってください。

   5.人生の中の自分

    先ほど、社会全体の流れの中の自分を理解することは大事だということを書きましたが、時間軸でも同様のことが言えます。自分の人生もはじめから終わりまでを俯瞰して、自分が幸せになるためには今どうあるべきか、必ず自分がどうありたいか、というビジョンを持ち続けてください。それをモチベーションにできれば、生きていく上での最も強力な武器になると思います。誰でも自分が一番好きです。「世界の誰よりあなたが好きです」と恋人に語りかけることがあってもそれは必ずウソです。あなたが世界の誰より好きなのはあなたです。当たり前です。ありたい自分でありつづけるためにがんばるというのは、何よりも強いモチベーションだと理解しています。人にやらされてやるのではなく、自分のためにやるということはモチベーションが違うというだけではなく、ついてくる結果も大きく違います。これは私の経験から裏付けされていて自信を持って言えます。
    某勝ち組企業の新人研修の一環で、「定年後の自分」を具体的に考えさえ、プレゼンさせるというプログラムがあったという話を聞きました。これは正に自分の人生のビジョンをもち、そこから逆算された今の自分がどうあるべきかを考える習慣をつけるための訓練の一環だと私は理解しています。

   6.ドキュメンテーションの大切さ

    人間は忘れる動物である。人間を様々な側面から捕らえたとき、結構上位に出てくるのが、このフレーズかもしれません。
    人類の中に一人いるかいなかの超人的な能力の持ち主なら別ですが、誰でも(少なくとも私は)これまで経験したことを全て覚えておくことは不可能です。
    しかしながら、仕事をやっていく上で、記録を判断材料とすることは当たり前ですし、日に行われていることです。皆さんの身近なドキュメンテーションの典型例が論文です。研究者の業績を一番分かりやすく、かつ客観的な指標で評価できる文書。大事だと思いませんか。また、国会中継なんかをみていると、閣僚があり得ない発言をした時に野党議員が「今の発言、議事録に残してくださいね」と発言することがあります。ああいう国の最高決定機関である国会での議事録ってそれだけ重みのある記録なのです。後でその議事録が裁判で証拠とされたりするのです。
    私の仕事でも過去の判断を踏襲する連続性と同時進行中の仕事との均一性(バランス)という2つの軸で物事を見ていくことが必要になることが多々あります。このとき、最も大事になってくるのが「記録」です。
    皆さんは会議の度に議事録を作成させられて、「なんでこんな面倒なことを…」と思うことがあると思います。これが社会に出ると、記録されていないことによって、面倒になることの方がよっぽど大きな自体なのです。これは私の仕事の大きな特徴でもありますが、連続性とバランスを保つためには過去の記録を引っ張り出すことも日常茶飯事ですし、その情報を検索できる手段を知ることも大事になってきます。普段皆さんがインターネットの検索エンジンを使って様々な情報を検索しているのと似ています。どの検索ワードを入れたら、正確で適切な情報が得られるか、結構知恵を絞るはずです。膨大な量の情報をどれだけ素早く検索できるか。それは今の情報を重んじる社会で生きていくためには大変重要なスキルだと、理解してください。ただ、世の中の全ての情報を受入れることは不可能ですので、必要に応じて取捨選択することもそのスキルの一部だと思います。
    ちょっと話が横道にそれました。ちょっと面倒かもしれませんが、今の世の中でドキュメンテーションが必要ない仕事なんて、無いと思っていて間違いないです。ですので、今研究室でやっている会議の議事録、週間報告、月間報告からその応用編である論文執筆に至るまで、今やっておいて、損することはありません。これは社会で必要となるドキュメンテーションの練習をやっていると思って、ある程度のクオリティーを維持してみる努力を惜しまないでください。こういう間違いが許される場でたくさん経験して、どこでどういう日本語を用いるべきか覚えていってください。

   7.いつも見えるところに貼っておく,暗示をかける

    ちょっと書きすぎましたので、そろそろ終わりにしようと思いますが、最後になりたい自分になるための、方法論的な話をします。
    ズバリ、マインドコントロールです。自分に暗示をかけることは使い道によっては大変有意義です。
    マインドコントロールと聞くと思い出すのはオウム真理教です。なぜ信者たちがあんなにスムーズに麻原死刑囚の犯罪指示を聞き入れて、しかも忠実に実行していったのか。それは事前に麻原死刑囚が絶対的な善で、世の中に悪がはびこっていることという暗示をかけ、信者のマインドコントロールに成功していたからです。
    マインドコントロールは悪い方に使えば、犯罪組織を作り出すこともできる大きな力です。これをなりたい自分になるために使えば同じように大きな力になるはずです。
    マインドコントロールするための方法とかなりたい自分になるための方法とかはいろんな本が出ていると思うので、そちらをご参考にしていただければ良いとは思いますが、マインドコントロールの基本は繰り返し教え込ませることです。私は自分が実践している簡単な方法をご紹介致しますと、なりたい自分、やりたいことを紙に書いて毎日必ず見る場所に貼っておくこと。それだけです。
    スピードスケートの堀井学さん(私がギリギリ知っているくらいなので、皆さんご存じないかもしれませんが)は、どんなに苦しいときもスランプに陥ったときも、「オリンピックでのメダル獲得」という趣旨の内容が書かれた紙をベッド上の天井に貼っていたそうです。そして1992年のリレハンメルオリンピックにおいて、スピードスケート500mで銅メダルを獲得しました。
    私はというと…Gordon Mooreの" If everything you try works, you are not trying hard enough."という言葉が好きで、粟津研時代にPCのデスクトップにその言葉を掲げていました。(この言葉はもともと青木先生のデスクトップにあった言葉を盗み見て、調べて感銘を受けて自分もマネをしたまでですが…)

    めちゃめちゃ偉そうなことを書きましたが、ここに書かれた内容は全て、冨岡 穣 一個人の意見であり、必ずしも皆様に当てはまるものではありませんので、参考程度の扱いとしてください。しかし、参考になる部分があり、皆様の今後の研究室生活を少しでも前向きなものとできたら幸いです。
    また、そのうち粟津研に現れると思いますので、その時はまた皆様からいろんな話を聞かせていただき、新たな刺激をいただければと思います。その際はよろしくお願い致します。

2010年4月21日
冨岡 穣