Dental Diagnosis & Therapy







小型かつ可搬なう蝕診断装置の開発

光を用いて歯の硬さを簡便に測定できる小型かつ可搬な装置“HAMILTOM (Hardness Meter using Indenter with Light for Tooth Monitoring)”を開発しています.40歳代以上では歯肉が退縮することで歯の付け根部分(根面)の露出が顕著になり,根面部は硬いエナメル質で覆われておらず虫歯(う蝕)になりやすいため,超高齢化社会においては根面う蝕の管理が重要な課題です.エナメル質に覆われた歯冠部のう蝕検査にはX線撮影,レーザー誘起蛍光法,光干渉断層計などの手法が用いられていますが,これらは根面う蝕には適していません.現状,根面う蝕の診断は視診と触診を基本としていますが,初期の根面う蝕では明確な色調変化がないことや,探針による触診が歯科医師の感覚に依存していることが課題となっています.
HAMILTOMでは,透明で頂角90度の円錐形圧子にLEDの光を入射し,反射してきた光をビームスプリッタでカメラの方へ反射させ,レンズで圧子先端を拡大してカメラに結像させます.圧子に何も触れていなければ圧子と空気の境界で全反射が起きて圧子が明るく写りますが,圧子に歯が触れるとガラスと歯の屈折率が共に約1.5と近いために全反射が起こらなくなり,反射率が顕著に低下します.圧子先端にかかる荷重を測定しながら圧子を歯に接触させ,荷重が指定した値に達した瞬間にカメラで撮影すると,接触した部分が暗く写ります.接触させる荷重が一定であれば,健全な硬い歯では接触する部分が小さく,暗くなる面積は小さいですが,柔らかいう蝕部では接触する部分が大きくなり,暗くなる面積も増加します.したがって,この暗くなる部分の面積を測定すれば硬さを測定することができます.手持ち型の小型装置で測定を行うため,生きたままの歯の硬さを測定することが可能となります.
これまで測定が困難であった臨床現場で生きたままの歯の硬さを本装置によって測定することができるようになり,その経時的な変化をも測定できるようになることで,う蝕の発生や進行と,う蝕の治療に伴う再石灰化による硬さの変化を捉えることが可能となり,う蝕の進行や治療の機序について,物理,化学的な観点から理解が進むと期待されています.さらにその知見を基に,科学的なエビデンスに基づいた低侵襲な歯科診療の発展が期待できます.