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赤外レーザー治療




動脈硬化治療 (血管形成術)

現在,動脈硬化の血管内治療としてバルーン拡張術及びステント留置術が広く行われています.レーザー血管形成術は動脈硬化プラークを直接除去できる治療法であり,バルーンやステントでは困難な病変の治療に適しています.しかしながら,従来の波長308 nmエキシマレーザーによる血管形成術では正常血管を損傷する危険性が報告されています.動脈硬化プラークの主成分であるコレステロールエステルは波長5.75μmにC=O伸縮振動に由来する吸収ピークを持っています.本研究室では,この波長5.75μmのパルスレーザーを用いた動脈硬化プラークの選択的除去による,低侵襲な血管形成術の開発を進めています.


早期消化器がん治療 (内視鏡的粘膜下層剥離術)

内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection; ESD)は,早期消化器がんに 対する低侵襲な治療法として臨床応用されています.しかしながら,ESDはその手技が困難であるため,消化管壁の穿孔を起こしてしまう頻度が高いことが問題となっています.本研究では,電気メスの代わりにレーザーと光吸収剤を用いた原理的に安全な新規ESD手技の開発を目的としています.


下肢静脈瘤治療

下肢静脈瘤に対する血管内レーザー治療 (Endovenous laser ablation; EVLA) は, 伏在静脈に光ファイバーを挿入し,レーザーを照射することで,静脈壁を収縮し,閉塞させる方法です.2011年に,波長980 nmレーザー装置を用いたEVLAが保険適用となり,日本でも急速に普及しています.しかし,術後に疼痛と皮下出血が頻繁に認められていることが問題となっています.本研究では,より効果的で 安全なEVLAを実現するために,ヒト静脈の光学特性値に基づいた最適な照射条件の検討を進めています.


虫歯治療 (齲蝕の切削)

現在歯科業界では,健康な歯へのダメージを最小限に抑える治療が強く求められています.レーザー歯科治療は歯科用ドリルに代わる騒音や振動が少ない快適な治療法として導入されてきました.しかしながら,従来のレーザー治療は健康な歯と虫歯を同様に削る点(非選択性)と,熱的なダメージから虫歯の治療面と詰め物(コンポジットレジン)が剥がれやすくなる点が問題でした.本研究では,虫歯中に特異的に反応する波長3μm帯および6μm帯に着目し,対応波長のレーザーを用いた健康な歯にダメージの少ない(低侵襲な)レーザー歯科治療の開発を行っています.




前立腺肥大症治療

現在,肥大した前立腺組織の効率的な除去を目的として,高出力レーザーによる前立腺組織の蒸散を検討しています.その安全性,および有効性の評価において,術者の手技に因らずに再現性よく評価できる方法が必要とされているため,本研究では,臨床での状況を再現した非臨床試験により,高出力レーザーを用いた際のレーザーと前立腺組織の相互作用を網羅的に検討しています.また,最適な照射条件を決定することで,有効かつ安全な前立腺肥大症治療の確立を目指して研究を進めています.



高効率な光線力学療法の技術開発




光線力学療法の治療計画の最適化技術の開発

光線力学療法(Photodynamic Therapy; PDT)とは,腫瘍組織に集積した光感受性物質にレーザー光を照射することにより腫瘍組織を選択的に治療する方法で,がんの低侵襲な治療法として注目されています.PDTの効果は腫瘍組織内の光感受性薬剤の濃度,光のエネルギー密度などに依存します.現在,これらの治療パラメータは経験的に定められているため,PDTの最適化には治療パラメータの経時変化を定量的に考慮する必要があります.特に,新規光源および新規光感受性薬剤を臨床応用しPDTを適応拡大するうえで重要となります.そこで,本研究では,PDT中の治療パラメータのダイナミクスを考慮した最適なPDTの技術開発を目的とし,理論に基づき構築されたシミュレーションを用いてPDTの評価モデルの開発を行なっています.


光線力学的治療システム開発支援ツールとしての腫瘍移植鶏卵モデル開発

新規光源,および新規光感受性薬剤のPDTへの臨床応用が望まれており,これらの最適な光の照射条件,および光感受性薬剤の投与量の検討は,腫瘍細胞を実験動物に移植し作製した腫瘍モデルを用いた非臨床試験で評価されています.一方,動物実験の実施は国際的に制限される傾向にあり,代替となる腫瘍モデルが求められていることから,本研究では腫瘍細胞を受精鶏卵に移植し作製した腫瘍移植鶏卵モデルの開発支援ツールとしての利用を目的とし,モデルの組織光学的妥当性を検討しています.特に,工業用発光ダイオードをPDT用光源として応用するための開発支援ツールとしての利用を目指し研究を進めています.


高効率PDTに向けた新規薬剤輸送システムの開発

当研究室では,光感受性薬剤のがん細胞への集積効率を高めるために,新規光感受性薬剤の開発に取り組んでいます.この新規光感受性薬剤は,複製能力を失わせたセンダイウイルス粒子 (Hemagglutinating virus of Japan envelope: HVJ-E) に,脂質化した光感受性物質プロトポルフィリンIX (protoporphyrin IX: PpIX) を挿入したものです.我々はこの薬剤をPorphyrus envelope (PE) と命名し,その有効性を調査しています.PEを用いたPDTでは,HVJ-Eの有するがん細胞への選択性および抗がん作用を利用することで,PDT効果とHVJ-E由来の殺細胞効果の相乗効果を得られると期待されます.これまでに,PEががん細胞と数分以内に膜融合を起こすことが確認されており,現在はPEを用いたPDTの治療効果とがん細胞に対する選択性を検討しています.また,臨床応用の早期実現を目指し,薬事承認されている光感受性薬剤タラポルフィンナトリウム (レザフィリン®,Meiji Seikaファルマ株式会社) のHVJ-Eへの封入も検討しています.





光学特性 / 分光計測




分光イメージング技術を用いた動脈硬化病変の診断

分光イメージングは,物質の分布や組成を分光学的情報から解析する非破壊的なイメージング技術です.この分光イメージングは薬品の成分分析や果実の糖度分析など,様々な分野で応用研究が行われています.特に近年,分光イメージングを用いた生体診断技術が多く報告されています.本研究室では,分光イメージングを用いた動脈硬化病変 (動脈硬化プラーク) の新たな定量的診断手法の確立を目指し,分光イメージングと血管内視鏡技術を組み合わせた近赤外マルチスペクトル血管内視鏡の開発を進めています.





レーザーイオン化質量分析




レーザーイオン化イメージング質量分析

病理研究や創薬の分野において,生体組織内におけるタンパク質等の生体分子や薬剤の空間分布を網羅的かつ細胞スケールの高空間分解能で測定する技術が求められています.近年,質量分析に空間分布を測定する機能を付加したイメージング質量分析が盛んに研究されています.本研究室では,従来法に比べ短時間で高空間分解能な質量イメージが取得可能な投影型イメージング質量分析装置の開発を進めています.投影型イメージング質量分析の実現により,病院における迅速な病理診断や,薬物分布測定の高速化による新薬開発の期間短縮・コスト削減が期待されています.




生体分子の高速な質量分析のための赤外レーザーイオン化技術の開発

近年,生体活動の分子レベルでの理解や創薬研究における質量分析法を用いたタンパク質解析は重要性を増しており,その高速化が強く望まれています.しかし,質量分析における従来の生体分子イオン化法のエレクトロスプレーイオン化 (electrospray ionization; ESI) やマトリックス支援レーザー脱離イオン化 (matrix-assisted laser desorption/ionization; MALDI) 法は試料の煩雑な前処理を必要とし,解析スピードを遅らせる原因となっています.そこで,本研究室では試料の分子振動を励起させる赤外線レーザーを利用した溶液試料の直接的なイオン化法の開発を行っています.本手法は溶液試料に含まれる様々な不純物の影響を受けにくく,特に医薬品のターゲットとなる難溶性の膜タンパク質解析の大幅な高速化が期待されます.





新規レーザー技術開発




高出力中赤外波長可変レーザーの開発

生体分子は,中赤外波長域に多数の分子振動モードを有しています.中赤外レーザーを用いた新規レーザー治療は,これらの分子振動を選択的に励起し,ミクロなレベルでの治療効果を与えることができるため,現在注目されています.本研究室では,高出力の中赤外波長可変レーザーを開発し,新規レーザー診断・治療の研究に応用しています.