氏名 下田 吉之 Yoshiyuki SHIMODA
職名 教授 Professor
学位 工学博士 Dr.Eng.
領域 共生エネルギーシステム学講座 都市エネルギーシステム領域
「都市エネルギーシステム」という名前の研究室はおそらく日本国内でも当研究室のみだと思います。研究室ではエネルギーが高密に消費される都市を対象に、そのエネルギー需要の成り立ちを科学的に解明し、需要端に設置される再生可能エネルギーや各種エネルギー変換装置をはじめ、機器や建物の高効率化、スマートグリッドなどエネルギーマネジメントシステム等の各種要素技術を組み上げて資源面・環境面から最適な都市エネルギーシステムを構成するための工学的手法を確立することを目標として研究活動を実施しています。
研究室でこの10年間精力的に取り組んできた研究テーマが、民生部門エネルギー最終需要モデルの開発と、それを用いた省エネルギー・温室効果ガス削減予測です。「どんな対策を実施すれば、何年後に温室効果ガスが何%減るのか。あるいは節電が必要な場合において、各需要家がどのような対策を取れば何kWの電力消費削減が実施されるのか?」を実際に都市内で起こっている活動や現象(人間の動き、気象条件の変化、建物周りの伝熱、それらに応じた機器の動き)をほぼそのまま再現することで評価できるモデルを開発しています。従って、建物や機器の高効率化だけでなく、サマータイムで1時間生活パターンがずれたらどうなるか、在宅勤務者が何%増えればどうなるかといったシミュレーションも可能です。また、このモデルで計算される都市・地域の電力ロードカーブを用いれば、将来のエネルギー需要の変化が電源構成にどのような影響を与えるかも評価することができます。
一方で、現実の都市内で起こっているエネルギー消費の様子はモデルで想定しているものよりも複雑であり、その実態を常に観察し、理解することも重要です。研究室では以前より、中心市街地に熱を供給する地域冷暖房プラントのシミュレーションツールを開発し、それを用いて、実際のプラントのエネルギー消費実態データを評価し、運転やシステムの改善を提案する研究を実施してきました。近年では、住宅・非住宅建築のエネルギー消費データの収集・分析、大規模複合施設のエネルギー消費データの分析と省エネルギー性の評価、大学キャンパスのエネルギー消費データの分析と改善策の立案など、エネルギー消費の現場に根ざした研究を実施することで、エネルギー需要の発生メカニズムを更に詳細に把握することを目指しています。
研究室で学ぶ学生には、これらの研究活動を通じて、エネルギー消費構造の改善や、温室効果ガス削減の道筋を俯瞰的に捉えられる幅広い視野を身につけてもらうことを期待しています。2050年に温室効果ガスを1990年比で半減するという大きな目標が世界にはあります。今大学で学ぶ学生は、その社会人としてのキャリアの中で、低炭素社会実現に向け、指導的な役割を果たしていく必要があります。そのための人材を育成することが当研究室の使命です。
このモデルを日本全体の家庭のエネルギー消費予測にまで展開した論文も発表。研究室のメンバーたちは活動を通じて、温室効果ガス削減の道筋を俯瞰的に捉えられる幅広い視野を身につけている。
「2050年に温室効果ガスを1990年比で半減するという大きな目標が世界にはあります。低炭素社会実現に向け、指導的な役割を果たせる人材を育成することも当研究室の使命です」。
「都市エネルギーシステム」という言葉が、学会における研究分野の名前や企業の部署の名前などいろいろなところで日常的に使われるようになっています。人の暮らしの舞台である都市をいかにして省エネルギー・低炭素型に転換していくのかを考えるうえでは、建築設備・建築環境、建築計画、都市計画、衛生工学、機械工学、電気工学、情報工学、また関連する人文・社会科学などさまざまな分野にまたがる学際的な取り組みが必要になります。そこで、新しい研究領域として「都市エネルギーシステム」分野のしっかりとした定義と、そのシステムとしての全体像を示すこと、省エネルギー・低炭素化に向けた具体的な改善の方策、そのためのマネジメントの手法を示し、民生分野における都市のエネルギー問題の解決に関心のある、行政、産業界、学会においてさまざまな分野に属する専門家、学生、さらには環境問題に関心の高い市民に対する入門書となることを目指して本書を執筆しました。
都市エネルギーシステム入門 住宅・建築・まちの省エネ・低炭素化 学芸出版社,(2014-9),263p