研究テーマ
微生物電池による有機性廃棄物からのエネルギー生産に関する基礎的研究

担当:M1 日置 賢

【研究背景・目的】
化石燃料の枯渇や地球温暖化などの資源・環境問題を解決するには,化石燃料への依存をできる限り抑えることが重要である.そのため,現在世界中で様々な代替エネルギーが開発されているが,その中の一つに有機性廃棄物から生産するエネルギーがある.有機性廃棄物は,安価に,そしてまた処理費を得て収集可能であるため,原料費が低くなる可能性を有しており,比較的早く利活用が進むことが予想されている.

エネルギー資源として利用しやすい有機性廃棄物の条件として,排出量がまとまっていること,定期的に排出されること,また容易に輸送可能であることなどがあるが,これらを満たすものとして下水が挙げられる.これまで,下水に含まれる有機物からエネルギーを回収する方法として,下水処理後に発生する余剰汚泥を原料とするメタン発酵が考案されてきたが,反応速度の遅さ,発酵後の廃液処理の必要性などの問題が残っており,効率的なエネルギー回収プロセスの構築には至っていない.

一方,有機物からエネルギー回収を行う方法には,微生物電池を利用する方法もある.微生物電池とは,微生物内の酵素による触媒作用を利用して,有機物の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する装置である.非常に高効率でエネルギー変換を行いうるため,これまでも微生物電池に関する研究は行われていたが,微生物内から電子を取り出すためにメディエータを添加する必要があった.ただ,メディエータの多くは有害,高価であることなどから実用性は低く,微生物電池に関する研究は停滞気味であった.しかし近年,異化型鉄還元菌であるShewanella putrefaciensやGeobacter metallireducensが,メディエータを添加せずに電子の授受が可能であることが示されたことで実用性が高まり,下水処理へ利用して電気エネルギーを回収することも期待できるようになった.さらに,下水処理に微生物電池を利用すれば,微生物の成長に利用されるはずの下水に含まれる有機物のエネルギーの一部が電気エネルギーとして回収されることで,従来の下水処理プロセスよりも余剰汚泥を削減できる可能性も秘められている.しかし,メディエータを添加しない微生物電池の研究は始まったばかりであり,今後の実用化を目指して,種々の基礎的検討が必要である.

これらのことを背景として,本研究では,微生物電池を利用した下水処理と電力回収を同時に行いうる新規処理システムの提案を目的とし,微生物電池に関する基礎的検討を行う.


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