研究テーマ
嫌気的条件下における内分泌撹乱化学物質の挙動

M2 長谷川哲郎



【研究背景および目的】
 一般に環境ホルモンと呼ばれている外因性内分泌攪乱化学物質(EDs:Endocrine Disruptors)とは、「生態の恒常性,生殖,発生,あるいは行動に関与する種々の生体内ホルモンの合成,分泌,体内輸送,結合,そしてそのホルモン作用,あるいはそのクリアランスなどの諸過程を阻害する性質を持つ外来性の物質」(スミソニアンワークショップ 1997)と定義され、動物が本来持っている内分泌系を攪乱することにより発ガン,生殖異常,知能障害,神経毒性および免疫毒性などを引き起こす可能性のある人工化学物質および一部の天然由来物質の総称である。

 EDsとして疑われる物質の中には、我々の生活に密接に関連している物質も含まれている。なかでも、プラスチックの性能を向上させる添加剤として重要な役割を果たしているフタル酸エステル類(PAEs)やビスフェノール類(BPs)、また非イオン界面活性剤の原料であるアルキルフェノール類はその使用量が多く、実際に身近な水環境での汚染が確認されている。

 これらのEDsは水環境に放出されると、好気的条件下では生分解が起こりやすいことが知られている。しかし、これらの物質は比較的脂溶性が高いため、河川や湖沼等の水環境中では底泥などに吸着される可能性が高い。実際、底泥中から比較的高頻度・高濃度で検出される傾向があることが報告されている。河川や湖沼等の底泥中は、多くの場合嫌気的な条件であるが、嫌気的条件下では好気的条件下に比べ、生分解が進みにくい傾向があるため、EDsが底泥に蓄積した場合、そのリスクとともに長期間残留する可能性がある。しかし、EDsの嫌気的生分解に関する報告は少ないため、詳細なリスク評価のためにはより多くの知見が必要とされている。

 これらのことを背景として、本研究ではEDsの底泥への蓄積性および底泥中での挙動を明らかにすることを目的として、EDsの底泥における嫌気的生分解性の評価に関する基礎的検討を行う。本研究では、実際に水環境汚染が確認されているビスフェノール類(BPs),またアルキルフェノール類(APs)およびその代謝物を対象物質として研究を行う。


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