研究テーマ
DNAマイクロアレイを利用した河川環境中の微生物解析

担当:M1 稲葉 正毅

【研究背景・目的】
従来、河川環境の評価は、物理化学的指標により環境の汚染値に基づいて評価してきた。しかし、環境を回復、維持するための適切な戦略を構築するためには、物質循環や各種化学物質分解といった微生物の機能に焦点を当てて、環境の総合的な「健全性」を評価する必要がある。そこで、河川環境が有する多元的機能を数値化、指標化することができれば、河川の「健全性」を客観的に診断することが可能になると考えられる。 これまでの研究で、河川微生物によるアニリン及びフェノールの化学物質分解ポテンシャルの解析から、化学物質分解ポテンシャルは様々な地理的、季節的要因によって影響を受け、変化することが明らかとなった。また、河川微生物の窒素循環及び芳香族化合物分解に関する各種機能遺伝子の定量から、アンモニア酸化細菌は下主処理場の下流で増加するなど、微生物機能は地理的、季節的な因子で変化することが明らかとなった。これらの結果より、河川微生物の機能は「健全性」評価指標として有用であると考えられた。 しかし、これらは微生物機能の一部による評価にすぎなかった。窒素循環、芳香族化合物分解だけでなく、金属の酸化/還元、炭素/硫黄循環などといった多元的な微生物機能を網羅的に解析することができれば、さらに詳細な「健全性」評価が可能になると考えられる。そこで、有用な手法として、DNAマイクロアレイ技術が挙げられる。この技術は一度に数万種類の遺伝子を網羅的に解析できることが最大の特徴である。現在、この技術は主として薬物や化学物質、外部からのストレスに対する生物の応答を遺伝子発現レベルで解析するために用いられている。環境中の微生物生態学的研究に応用した例は極めて少ないが、近年、機能遺伝子の検出、定量手法として有用であることが数例報告されている。  本研究では、河川の有する多元的機能を把握するための、河川の「健全性」評価指標の開発を最終目的とする。そのために、DNAマイクロアレイを用いて河川微生物の有する機能遺伝子の解析を行い、地理的特徴や汚染度との関連性から、指標化の可能性を検討していく。


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