研究テーマ
微生物機能を利用したヒ素汚染土壌の浄化技術の開発

担当: M2 神崎 雅也

【研究背景・目的】
1.はじめに 現在,企業の工場跡地等の再開発等に伴い,ヒ素による土壌・地下水汚染が顕在化してきています。このような土壌・地下水汚染に対して,既存の技術では主に物理化学的処理が行われています。封じ込めや化学薬剤による固化や不溶化などの対策は,一時的な対処であり,必ずしも根本的な浄化とはいえません。更に化学薬剤の使用は,土性を損失させる恐れがあり,不溶化処理は汚染物質の再溶出を防止するための長期的なモニタリングが必要です。そのため,低コストで安全な新しい浄化技術の開発が望まれており,その1つとして,微生物機能を利用した生物的浄化技術の研究が進められています。生物的処理は土壌への負担が少なく,コストも安いというメリットがあります。  ヒ素は,土壌環境中で主に無機物のヒ酸および亜ヒ酸の形態で存在している。亜ヒ酸はヒ酸より土壌への吸着性が弱いことから,土壌から溶出しやすく,ヒ酸還元菌は,ヒ酸鉄や酸化鉄鉱物などの固相中のヒ酸を亜ヒ酸に還元できるため,ヒ素を固相から液相に溶出し,回収することが可能です。そこで,ヒ素汚染土壌浄化のために,ヒ酸還元菌Bacillus sp. SF-1を利用したオンサイト/オフサイト型のバイオリアクターの構築を目指しています。

2.bacillus sp. SF-1について SF-1は,ガラス工場の側溝泥からセレン酸還元菌として分離されました。SF-1は,通性嫌気性菌(好気でも嫌気でも増殖する微生物)であり,好気条件で大量に増殖します。SF-1は嫌気条件で,5価のヒ酸(As(X))を3価の亜ヒ酸(As(V))に還元することができます。また,酸化数が6価のセレン酸を4価の亜セレン酸に還元し,さらに亜セレン酸をゼロ価元素体セレンに還元することもできます。その他に,硝酸やモリブテンなども還元することができ,多くの物質を還元できる有能な微生物です。

3.SF-1のヒ酸還元能力  一般的に酸化還元反応が起これば何かが酸化されます。SF-1でヒ酸を還元させるのに乳酸を用います。SF-1は,嫌気条件で乳酸が酢酸に酸化されると同時にヒ酸を亜ヒ酸に還元します。この酸化還元のエネルギーを利用してSF-1は嫌気条件下でも増殖することができます。図1にSF-1によるヒ酸還元実験の結果を示しています。図1より、SF-1は約8.5mMという高濃度のヒ酸を24時間後以内に完全に亜ヒ酸に還元することができます。

4. SF-1を利用した土壌浄化(これからの研究)  ヒ素は土壌環境中で主にヒ酸の形態で存在しており,鉄酸化物やアルミ酸化物に吸着しています。ヒ素で汚染された土壌に水を入れてスラリー化(泥水にする)すると土壌に吸着しているヒ素の一部が液相に溶出してきます。一般的なヒ素の性質として,ヒ酸より亜ヒ酸の方が水溶性が高いと言われています。そこで,SF-1の還元能力を利用して,土壌に吸着しているヒ酸を水に溶けやすい亜ヒ酸に還元して液相にヒ素を溶出しやすくします。その後,遠心分離により,土壌と液相に分離して汚染土壌を浄化します。このようなリアクターの実験を今後行っていきます。


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